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風唄 本編11 [2008年06月18日(水)]

「『天と地は未だ無限で、両者はまた境がなかった―――』この無限の天と神は天地創造、2つの世界を作り出す。神の持つ無限の空と地面を少しだけ分けてもらうんだな」
「んん?分ける?」
「神話なんてお伽話みたいなもんだ。話半分で聞け」
「ふぁ〜い」

 北斗は溜め息をついた。一日中書庫で探し物をしていたため、体がだるかった。しかし溜め息は、それによるものではない。
 真実ではないだろうと今までずっと否定的に読んでいたそのお伽話。
それを信じなければならない事に、何か大きな負荷がかかっているような気がする。
存在そのものが証明である少年は、目の前にいるが…彼は何も知らないのだ。

「そのお伽話を一代目は信じて颯輝に施術した訳だ」
「北斗は信じないの?」「……信じるしかない、と今は思う」

 颯輝は静かに微笑んだ。

「続き、頼む」

 そんな彼を北斗は一瞥し、そして書物に目を落とす。

「神はさらに2つの大地にそれぞれ子供を生む。2つの世界は分け隔てられていたが、"扉"を介し交流し合う。やがて双方に人間が生まれ、増え…戦争が始まる。愚かな生き物だな」

 颯輝は何も言わず、ただ黙って聞いている。

「神の子らは人間の戦争を嘆き、扉を閉めていく。扉は幾つか存在したことになってるんだな。そして、最後の扉だけを残し2人は自ら風に溶けて消える」

 抽象的な言葉に首を傾げた。美しい表現ではあるが、それは自殺行為のように颯輝は感じた。

「何で…」
「2人の神の子は、例えるなら兄弟。さらに人間は神の子の産物。兄弟の子供同士の戦争は、辛かったんだろ」

 颯輝は想像し小さく頷いた。それはきっと、2人にとって見ていたくない程悲しい戦争だったのだ。

「俺には神の子らが何故中途半端に扉ひとつ残し、消えていくのかがわからんな」

 扉を前に悲しみを携え消え行く兄弟。きっとそこにあったものは―――。

「信じたかったんだろ。自分達の子供…人間のこと」

 今度は北斗が黙る番だった。

「んで?答えは?」

 彼はページをめくった。

「ここで今まで黙って見てた神が動く。『人間達の和平は望めぬと判断し、神は最後の扉を固く閉めた』…」
「それじゃ2人の希望、なくなっちゃうじゃん」

北斗は颯輝をちらりと見ただけで続けた。

「結び部分。ここが答えと言っていいだろう」

 北斗は最後の一行を指し示す。颯輝には読めないが、本当に最後の部分だということは分かる。

「序章はこう終わる。『2つの世界が2度と交わらぬよう、時を曲げた』」

 北斗の静かな声が終わり、辺りは静寂に支配される。月明かりが青白く、2人の顔を照らした。

「それって…」
「『時を曲げる』ことが具体的にどういうことなのか、それは俺にもわからない。だが颯輝が300年も超えなければならない理由はここにあると推理できるな。
そして『2つの世界』について。一方がこの世界と仮定すると…妹は、また別の世界に居るんじゃないか…と推測できる」

 重量を感じさせる音をたてながら本を閉じた。相当な厚みだ。答えは、その中から僅かこれだけ。

 北斗は文献を整理している時に、あることに気が付き、そしてあることを決意した。
 新しい、信じられないような状況に身を置くことは、自分を脅かす恐怖となって襲うかもしれない。だがその反面、新たなものが見えてくる手掛かりとなる可能性だってあるだろう?
 柄になく、好奇心が疼いている。

 一方で、颯輝は難しい顔で頭を掻きむしった。
「2つの世界…」

 目が大きく見開かれている。

「いーみわかんねぇ!時間を曲げたって、んなことできるわけないじゃん!」

 そのまま仰向けに倒れ込んだ。背中に当たる石が痛い。月が、先程より高い位置で静かに佇んでいる。
 北斗が隣に座る気配がした。空を見ているようだ。2人が動かないでいると、静寂が耳にうるさい。

「夜が明けたら、出発しよう」

 静寂に良く似合う声だ。颯輝は思った。

「俺も行く」
「………え?」
「お前と子猫だけじゃ、このキビシー世の中を渡っていけなさそうだしな」

 颯輝は思わず身を起こした。その目は大きく見開き、月の光が溢れ出んばかりに輝く。

「マジか!マジでか!?やったーーーー!!」

 喜び勇んだ声に、マックスが飛び起き、完全に夜を切り裂いた。
共鳴するように遠くで魔物の咆哮が聞こえるのは、多分気のせいじゃない。

「ってことで…ほれ」

 北斗が懐に手を突っ込むと、中から食料が出てきた。
颯輝は歓声をあげ、どこにそんなに隠していたのか、次々出てくるまだ温かみの感じる晩飯に飛びついた。マックスもさっきまで眠っていたのが嘘のように機敏な動きで自分の食料を確保している。

「それと旅に必要になりそうなものも持ってきた。ここで夜を明かそう。俺も…もう家には帰らない」


 颯輝は動きを止めた。

「あと4人兄弟がいる。俺1人いなくなったって大丈…」
「ダメだ」

 全て言い終わらない内に、颯輝ははっきりと制した。その声に、北斗ははっとする。
 先程とは打って変わって真剣な表情がそこにあった。

「ちゃんと言わなきゃダメだ」
「………」
「突然家族がいなくなって、平気な訳ない」

 血のつながりが、それ程までに大切と思った事はない。家族は生まれた時から傍にいて、当たり前のように暮らしていた。
 だが、颯輝の場合は―――。

「悪い…」

 颯輝は少し微笑んで首を振り、北斗は立ち上がった。

「今兄貴に言ってくる。お袋や親父じゃ止められそうだ」
「いってらっさーい」
「すぐ戻る」
「急がなくていいよ。朝まで時間はたっぷりだ」

 頷き、北斗は駆けて行った。傍らを見ると、満足そうに目を細め、口元を舐めている小さな相棒がいる。

「駒馳、絶対見つけだそうな」

 細められていた目は颯輝を見つめ、同意するかのように尻尾が跳ねる。
そのまま颯輝の腰に寄りかかるよう首を擦り寄せ、同じ方向を見て腰を下ろした。
 妙なところで甘ったれな相棒もまた、颯輝には掛け替えのない家族であった。

「なぁ、駒馳に会ったら何したい?」

 マックスも、あの時駒馳不在に戸惑っていた。
それ程までに2人と1匹は仲が良く、遠くから駒馳と戯れる姿を見ると、まるでもう1人弟ができたようだった。
 彼は小さく唸って考えいる。颯輝は急かさず、また星を見ながら答えを待った。
いつしか唸り声が、猫科特有の喉を鳴らすようなあの音に変化し…。
 颯輝は笑った。

「抱っこされたいの?じゃオレはマックスを抱いた駒馳をおんぶだな!」

 小さかったあの子は今、どうしてるだろうか。知らない世界で、好き嫌いせず食事を摂り、ちゃんと大きくなっているだろうか。
 本当に連れて帰ることができるのだろうか。飛び越えた時間は正しいのだろうか。ちゃんと会えるのだろうか。
 不安はそれこそ溢れて尽きることはないが、今はただ懐かしい気持ちに身を浸したい。
 たった1人の血を分けた兄妹。あの時誓った想いは、まだ生きている。

「北斗、帰ってこないけど先寝ちゃうか」

 寝袋に潜り込んで目を閉じると、潮騒と、懐かしい妹の鼻歌が聞こえたような気がした。
21:08 | この記事のURL
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風唄 本編10 [2008年06月18日(水)]
自然は変わらず受け入れてくれる。頭上に広がる星々もそうだ。
今正にきらめいていると感じた光も、この地まで辿り着くのまでに何億光年と時間がかかっているらしい。 少し近めの星ならば、300前に光を放って今届いたものもあるだろうか?光と同じ時間を超えた自分。 だとすれば、不思議な気分だ。
 空気が澄んでいて、月と星が良く見える。薄くたなびく雲も、時折月光を僅かに弱める控え目な程度で、却って綺麗だと思う。

 夜に、と北斗は言っていた。彼にとっての夜は一体いつ頃からなのか分からないが、陽が落ちてからは随分経った。
 しかしこの夜の海と無限を感じる空を見ていれば、退屈など感じない。
穏やかな気持ちを颯輝に与えてくれるこの眺望は、紛れもない故郷であった。違う所はひとつだけだ。

 妹がいない。

「昼飯はどうしたんだ?」

 星座の絵を描き始めた颯輝に、後ろから声がかかった。この静寂を壊さない、低い声だ。
星の名を冠した友人とは、やはり似てないかもしれない。
膝を立てて、後ろに両手を付いて空を見上げていた颯輝は更に首を後方に回すと、逆さまに映った北斗を見留めた。
何か、別れた時よりも薄汚れている気がする。

「おー?」
「気が回らなくてすまんかった。何か食べたか?」
「簡易食食べたからだいじょーぶ」
「簡易食?」
「オレら一緒に凍ってたのがあったっぽい」

 マックスはそこで行儀良く前足を揃えて寝ている。さっきまで一緒に星を見ていたと思ったのにいつの間に。
寝相は意外に悪いから、熟睡に入れば、その内腹を出して寝言を言い出すだろう。野生は何処へ、おかしな獣である。

「周到なご先祖様だな」

 鼻で笑うように北斗が言った。大星の話題になると、毎回そんな態度だ。北斗は大星が嫌いなのだろうか?

「なあ、」
「待たせたのは俺だが、今まで何して時間潰してたんだ?」
「あ、うん。街中の店ぶらついたり」

 言い出しはほぼ同時か若干颯輝が先であったというのに、北斗は強引とも言える声のトーンで喋った。
何かあったのだろうか?まだ出会ったばかりの友人だ。颯輝は無理に会話を曲げる事はしなかった。

「そうか。街並みは…やっぱり変わるものか?」
「や、意外にそんな変わってなかったなぁ。オレ、自分浮いてないかヒヤヒヤしたけどそーでもなかったし。
オレよりマックスが目立ってた」
「まあ…そんな生き物滅多に見かけないしな」

 生き物の腹は白く、細く速く大地を蹴る足は今、宙を力無く泳いでいる。
閉じていたと思われた口元は、ゆっくり半開きになり、ムニャムニャと口周りを舐めた後また閉じられた。

「あ、外も少し散歩してきたぞ」
「旅立ち予行練習、ってところか」
「まーな。一匹、なんかと戦ってきた」
「なんか…まさか、魔物…?」
「うん!」

 北斗の口元は何とか笑みを刻んでいるものの、その顔は嫌悪でいっぱいだ。

「まぁ…旅には避けて通れない相手…だろうしな」

 ぶつぶつと何か言っている。マックスと2人、武器を持たない状態でも何とか勝利を収めることができたのだ。
魔物の数は多くなったのだろうが、強さの問題はないだろう。

「怖いのか?」
「まさか」
「ほんとかなぁ〜」
「馬鹿にするなよ」

 颯輝の目には、嫌悪の顔がなくなって鼻で笑う彼の姿が強がりではないように映った。

「んで、そっちは?」

 ああ、と北斗は傍らに置いていた幾つかの書物に手を伸ばす。古いのが一目瞭然だ。紙は完全に変色して、茶色く端が擦り切れている。
それを別段貴重品を触るふうな様子もなく、パラパラとページを撫でる。

「時間はかかったが幾つか見つけることはできた。家系図……は見ても別に面白くもなかった。見なくていい。神話の…ここだな。序章」

 古びた書物を無造作に石の上に優しくもない手つきで置く。
そして比較的白い紙で、最近の物のように見える一冊の本を手にし、目的のページを開いた。
深緑の丁装は、触るとざらりとしている。

「颯輝、お前神話の内容知らないんだよな?」
「うん」
「そして一代目から詳しい話も聞いてない」
「うんうん」
「じゃあ…合ってるかわわからんが、俺の見解、聞くか?」
「うん!」

 絵本の読み聞かせが始まる直前の子供のようだ。本当に屈託なくよく笑う。
 北斗は一呼吸置き、序章を指し示した。

「神話が、しかも序文が答えそのものだった」
「答え?」
「本当に…これが正しい答えなら、こんなに簡単でいいのかってくらいだ」
「オレも読めばわかるかな?」
「無理だろ。古文字で書かれてる。300年前よりずっと古い言葉と文字だ」

 颯輝より長く、骨ばった指が移動し、冒頭を指し示す。

「神話だから当然神が出てくる。世界を創造する所から始まる」

 北斗は少し思案し、解説を始めた。
21:06 | この記事のURL
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観光!in名古屋☆ [2008年06月18日(水)]
ふっふっふ。今日は半日名古屋を観光してきましたよ〜
定番!名古屋城です〜そこで美人の外人観光客のお姉さんに声をかけられ彼女を撮り、その後私もとってもらいました!言葉はさっぱりでしたが気持ちが通じ合ってよかったです
で、これがその写真ですw

金ぴかのしゃちほこですよwwwなんだかたい焼きみたいで美味しそうです(笑
あと、お城の土台になる岩を運ぶおっちゃん

の、お人形さんですよw携帯でとると本物みたいですw



帰りには矢場とんで味噌カツ丼!

思ったより多くて食べきるのに苦労しましたが 美味しかったです
でもこれ、キャベツ頼まないと辛いですね〜やはり、カツにはキャベツですw
味噌のみのお持ち帰りもできるから お土産はそれかな


計画していた時点では お城に行った後テレビ塔なんかも行きたいな〜って思っていたのですが 名古屋城で道に迷いお堀を一周してしまってヘトヘトだったのでそこまでいけませんでした;
次こそ!
18:17 | この記事のURL
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ご意見プリーズ! [2008年06月18日(水)]
最近、お客様やスタッフと語り合った事 です



テーマ





こんにゃく





東北で生まれ育った私は、断然 白を使うことが多いです。
お刺身でも、おでんでも、豚汁でも、煎餅汁や馬肉汁の糸こんだって、仙台の玉こんだって、お味噌汁以外は白いこんにゃくを使います!
未だ 自分で黒いこんにゃくは買ったことないです。
おでんの鍋に黒いこんにゃくが浮かんでいるシーンなんて想像できませんよ

しかし、ここは西日本です。
お店に並ぶのは圧倒的に黒のほうが多いです。
お客様いわく、「白はなんとなく高級感があるから刺身のときだけ」
基本は黒だそうです(゜Д゜|||)カルチャーショック!

黒だと、舌触りがザラザラしそうなイメージがあるので苦手なんですよね;
なので、閲覧してくださっている皆さんに質問!


こんにゃくといえば 白?or黒?
11:08 | この記事のURL
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風唄 本編9 [2008年06月18日(水)]
300年前、始祖は何故颯輝の肉体を止める必要があったのだろうか。
300年後の今に何を求めだのだろうか。北斗は急ぎ家に入ると書庫に向かった。
 それにしても、妹を助けたいがために、成功するかも分からぬ賭けに乗るなんて。
彼には他に家族はいなかったのだろうか?

「…北斗?」

 静かな声に呼ばれて振り返ると、そこには白い顔をして立つ兄がいた。慌てて服が裂けている部分を隠す。


「朝食、どうしたんだ?」
「あ…」

 何かに夢中になるとまず食事を忘れるのは、北斗の癖だった。

「みんな下の子達に食べられちゃったよ」

 あの問題双子か…と嘆息を禁じ得ない。北斗が聞いた限りでは、妹は最近ダイエット中であるはずだった。
…もし自分だったら颯輝のように妹の為に氷に入れるだろうかと思わず考えてしまった。

「…肥えても知らん」

 北斗の呟きに兄は小さく笑った。兄、姉、北斗、双子の妹と弟、五人いる兄弟の仲は悪くないと思う。
中でも兄と北斗は殊更良い。体の弱い兄と、あまり活動的とは言い難い北斗は馬が合った。
 だが北斗は知っている。物静かであまり感情を表に出さぬ兄だが、いつも兄弟達を強い心で見守っているということ。
家族を強く思っていること。

「書庫に行こうと思って」

 自分が書物を求めて書庫に行くことは珍しいことではない。それでも何故か、直感的に颯輝の事は伏した方が良いと思った。
 兄は少し間を置いてから、そう、と穏やかな声で呟くと優しい瞳で北斗を見た。優しく、そして寂しげだった。

「…ごめんね、北斗」

 兄は、北斗が家を継ぐのを嫌がっている事を知っている。言った訳ではないが、気付いている。その事だ。
 兄の言葉を受けて小さく首を振った。
北斗に家を継がせるという、北斗にとっての悪運を強いてしまったのは自分のせいだと思っているのだ。
―――体が悪いのは、兄貴が悪いわけじゃない。

 「じゃあ俺、本探してくる」
「昼はちゃんと食べるんだよ」
「分かってる」

 今度は北斗が笑う番だった。兄は、家族を誰より大切にする。能力の問題だけではない。
家を継ぐに相応しいのは、自分でなく兄であると思っている。それならば、自分は喜んでサポートだってするのに。

「兄貴もあんまり体に負担かけるなよ」

 嬉しそうな顔が、北斗に向けられた。





 一面古びた紙独特の匂いがする。北斗が持ち込んだ本もあり、そこにある物全てが古い書物という訳ではないが、
その殆どが北斗の生まれる前からこの家にあるものだ。家の者はあまりここへは立ち入らないが、北斗が頻繁に出入りする。
よって目立って汚れている様子はない。ただし、それは入り口付近の北斗が好んで読む哲学の本がある場所のみだ。

「…探すのだけで骨が折れそうだ」

 奥を覗いただけで、少し挫折しそうになった。
見た限り荒れている様子なく、全て本棚に収まってはいるが、どれも埃を被っており、尚且つ種類別になっていない。それも大量だ。
 しかし。

「探すしかないだろ」

 大星が颯輝に言ったヒント、神話の本を見つけ出す。それと役に立つかはわからないが、あれば家系図。
そして始祖、大星が綴った手記などあれば御の字だ。
 北斗は踏み台に上がり、上段の本から手をかけた。色褪せた背表紙は、一見しただけでは何の文献だか判別できない。
そういった物は手に取って開かねばならない。
 颯輝に手伝わせるべきだったか?
 噎せかえりそうな埃を頭から被ったところで後悔しかかった。
 これは自分が勝手に思い付いた事だ。そしておそらく自身の未来にも関わってくるだろう。

 己を奮い立たせ北斗は本を引き抜いた。
 数冊が頭を直撃、落下した。

 ―――…やっぱり手伝わせれば良かった。

 北斗はひとり、悪態を付いた。
08:58 | この記事のURL
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風唄 本編8 [2008年06月18日(水)]
北斗はろくに挨拶もせずに行ってしまった。
 彼の祖先にあたる大星は、共に成長をし、共に過ごした時間は妹の次と言っても過言ではない親友だ。
見間違える筈のない相手と北斗を文字通り見間違えてしまった訳だが、冷静な目で見れば、彼と親友は異なる箇所も多々あるように思える。
 日の高さを見ると、約束の夜まではかなりの時間がありそうだった。

「どーすっかな。マックス?」

 先程まで氷の中で共に300年眠り続けたと言うのに、眠たげにゆるりと目瞬きを繰り返している。
見つめる颯輝に、まるで眠気を払うかのように顔を左右に振って応えた。

「眠気覚ましにほんとに散歩にいこうか」

 尻尾がひょこんと跳ね、マックスは腰を上げた。

 外の魔物の数は少なくない。北斗はそう言っていたが、バトルで体を慣らすには丁度いいかもしれない。
武器は所持してなかったが、少し囓った体術がある。周りを彷徨いている雑魚ぐらいどうにかなるだろう。
 視線を感じて振り向くと、散歩を待ち望むマックスの姿がある。
小さな体に隠されている爪と牙は、実際はかなりの威力を持って敵に食い込んでいく。
 大丈夫、自分には頼れる相棒もいる。

 少し歩くと、潮の匂いがした。僅かな微風が運んでくる、海の香り。空と同じように、それは変わらず颯輝を迎えた。
 懐かしい思いにとらわれ、颯輝は込み上げる気持ちを言葉にする事ができなかった。
 水面に太陽が眩しく輝き、小波が砂を攫う。泡の粒は白くはじけて、また海に溶け込む。颯輝の髪が風に揺れた。
 外は変わったらしい。しかし、この光景は紛れもなく颯輝の知る海だった。

「行こうか」

 マックスもこの光景を静かに眺めていたようだ。颯輝の言葉に耳を動かして、足元に駆け寄ってきた。

 風景が変わっているかも、道を行ったら迷うかもしれない。海まで降りて行って海岸沿いを歩く事にした。
300年前ならば、そのまま街の外へと出れた筈だ。
 左手には海。右手の少し遠くには、背の低い煉瓦造りの家々や店と木々が見える。
18年過ごした場所。決して大きくはないこの街で、颯輝は駒馳と、そして両親とで生活してきた。
幼い時には兄妹に大星も混ざって3人で街の隅にある森を探検したり、街の中を彷徨いては裏道の発見に精をだした。
夕方には今歩いている海岸とは方角的に真逆の砂浜まで歩いて行き、そこで夕日を見てから帰るのが駒馳のお気に入りだった。
 この街は三方を海に囲まれていて、漁業が栄えている。港町であるが故に、時折旅人が一時の休息に利用することもあるようだった。
今はどうなのだろう?
 朝日の海岸と砂浜の夕日。颯輝は今、朝日が見える海沿いを歩いている。
もう少し海まで近づいて魚でも見てこようか、そう思ったが止めることにした。
 もし、岩場で足をとられて海に落ちたりなどしたら…泳げない颯輝はそれこと生死に関わる問題だ。

「…っと!」

 そんな事を考えながら歩いていたら、不思議な壁にぶつかりそうになった。

「なんだこれ?」

 辺りを見渡すと、もう街の外へとあと僅かというところだった。先ほど見えていた家々は後方にある。
 また正面に向き合うと、相変わらず不思議な隔たりはそこにあった。
自分の記憶を手繰ってみても、こんな所にこんな物は無かったと思う。
マックスも恐る恐る近づいて、様子を窺っているようだ。
それは無色透明で、あちら側が見えるが波打っているように歪に形をかえている。
 息をかけても不規則に波打つ様子は変わらない。
颯輝は指先を近付け、触れてみようとした。しかし、それはできなかった。

「……すげー…」

 人差し指でゆっくりと触れるつもりだったが、それは颯輝の指を避けるように円形に空間を作った。
そのまま手を開いてみると、円は颯輝の手に触れることなく広がった。

「いけるみたいだ、マックス」

 マックスも鼻先を近づけた、するとやはり同じ様にそれは彼の少し湿った鼻を避けた。
状況把握を終了すると、四本足は少し後退した。その間颯輝は片手をつっこんだままだ。

「んじゃ、いっちょ行き…っておーい!」

 マックスが後退したその場から突然加速をつけ、一足先に不思議な壁をすり抜けた。
 それを見た颯輝も慌てて前進した。きっと目を瞑っていたらここに隔たりがあることなど解らないだろう。
肌にはなんの感覚もなく、街を出た。

 しかし外の空気は明らかに違っている。風の匂いが違うのかもしれない。振り返ると、街は白い壁だった。
街側から見たら無色透明な不思議な壁は、外界から見たら濃厚な霧となって街を隠しているようだ。
 一体何のために。その答えは北斗の言葉にあった。

「そんなに増えてるのかな…」

 魔物達は、街の人々にとって思った以上に脅威らしい。
 颯輝は動物達の気持ちや感情を汲み取ることを得意とする。
不思議な事に、顔や声を聞けば、手に取るように言いたいことが伝わってくる。
しかし魔物と呼ばれる彼等の言葉は聞こえない。心を伝えてくる前に、牙を剥く。

 それを今嘆いても仕方がない。颯輝は辺りを見渡した。
 風景は、そんなに変わっていないように思える。徐に転がる岩、気ままに伸びる雑草と、点々と生える木々。
遠くに見える禿げ山は、かつてと同じく禿げたままだった。

「散歩…にしてはおもしろくないコースかも」

 颯輝は遠くへ行き過ぎぬよう、背が高めの木に歩みを進めた。登ればもう少し遠くまで見渡せるかもしれない。
マックスも蝶と戯れつつも傍らを離れず、颯輝に寄り添った。
 登れそうな木であろうか。颯輝がその表皮が如何なるものか、触って確かめようとしたその時だった。

 風向きが少し変わった。警告はそれだけで十分だった。
 声をあげるより早く、咄嗟に颯輝とマックスは左右に分散するよう飛び退いた。
それとほぼ同時に土が抉られるような衝撃音と砂埃が辺りを支配する。
すぐさま颯輝は地に片手を付き、次の体制に立て直せるよう重心を移動した。
あちらを見遣るとマックスも同様、低く唸って戦闘態勢に入っている。

 突如として空から降ってきた濃紺の物体。それは颯輝とマックスの間を割って入ってきた。
サイズは自分の背丈と同じ程度か、少し大きいか。皮膚は分厚く乾燥していて頑丈そうだ。
動物に置き換えたら、トカゲとコウモリの間というところだろう。もっとも、その羽は四枚もあるが。
咆哮は耳を塞ぎたくなるような不快な声色と音量、それに意志を汲み取ることはできない。それが颯輝にとっての何よりの証明。
 

魔物だった。


 こんな早く出会えると思わなかった。ここで北斗の言葉を体感した訳だ。
 魔物は大きく羽を広げた。瞳は暗黒で、颯輝を見つめている。照準は自分、下手に動くことはできない。次は何がくる?
 しかしマックスが動き出す方が早かった。小さな体躯を生かし、素早く魔物の足元縫って気を逸らす。
羽ばたきで真空を生み出し、颯輝を狙っていた魔物の集中力が分散した。
その僅かな隙を見逃さず、横に転がるようにして危うげなく颯輝はその攻撃をかわした。
 横目で見ると、もと居た場所の足元に転がっていたはずの岩や石は粉砕され、細かな砂となり果てていた。

「マックス…サンキュー」

 彼がいなかったら、旅立ち前に人生が終わっていたかもしれない。
 すぐさま颯輝は駆け出した。同時にマックスも相手に飛びつく。息はぴったりだ。
 がっちりの爪を立て、敵の喉仏に噛みついている。
分厚い皮膚の持ち主にそれはあまり効果的な攻撃とは言えないが、マックスに気をとられている間に、颯輝が素早く回り込み一枚の羽に狙いを絞った。
 怒り狂った敵が頭を左右に揺らしてマックス振り落とした。
颯輝は体を捻り、右足は羽の付け根を狙う。先程の攻撃で理解したのだが、この魔物は主に羽から攻撃を行うようだ。
そこを蹴り落とせば―――。
 だが敵もそう簡単にはさせてくれなかった。
マックスが首から離れるやいなや、素早く体を半回転させ結果的に狙っていた羽の付け根部分よりやや先に蹴りを入れることになった。
それでも素早い蹴りは羽の一部に亀裂を生じさせ、僅かながらダメージを与えた。
 再び魔物は颯輝と向き合う形となった。羽を損傷したことで怒り狂っている。
叫び声をあげながらそのままの勢いで、颯輝に爪で襲いかかってくる。
喰らったら大変なダメージだろうが、直線的な攻撃だ。
 颯輝は意識を集中し、敵の右からの攻撃を腕で払うように流した。
間髪いれずに少し屈んで上体を捻り、相手の喉仏を上に向かって肘鉄を喰らわせた。
 唾液が跳ね、敵はふらつくように、颯輝は軽いフットワークで後退し、両者の間に間合いが生み出された。
マックスが素早く颯輝の横につく。

「今のは効いたろー!?」

 次はどう来るのだろう。颯輝は息を整えつつ敵を見据えた。
 敵は項垂れていた頭をゆるりと元の位置に戻し、低い声で唸っている。

「おいおいおい…?」

 体勢を立て直した相手を見ると硬い体表の賜物だろうか、敵に大きなダメージはなさそうだった。
 運動量はほんの少しだというのに汗が額を伝う。嫌な感じだ。

 マックスは顎を引いて、静かに敵の目を見続けている。自分の何倍もの大きさの魔物だというのに、引けを取る箇所はひとつもない。

「マックス、行けるか」

 その様子から、行けないはずがないと分かりつつ声をかけた。
彼は颯輝を見ることも唸ることもしなかったが、彼の前を向いていた耳がこちら側に少し動いたのをしっかりと確認した。

 深く、長く、息を吐く。
 敵は大地を掻いて、颯輝を見つめることを止めない。自然に手が拳を作っていた。
 颯輝も目を逸らすことはしない。木々のざわめきも、頬に当たっているはずの風の音も聞こえなくなった。
集中力が最大まで引き出されている。しかし颯輝は肉体の緊張とはうらはらに、不思議と心は落ち着いているのを自覚した。

 息を吸い終えたのと同時に、颯輝とマックスは踏み出した。
マックスのしなやかな体躯はそれを裏切る速さで敵に襲いかかろうとしている。颯輝は注目を自分に向けるため、正面から突っ込んでいく。
 敵が低いうなり声と共に負傷した羽を広げた。
 また来る―――!!

「マックス!!」

 弾丸のように駆けているマックスはすぐさま軌道を変更し、敵の右手に出る。
颯輝は正面からの衝撃波を高く跳躍する事でかわした。体を捻り、そのまま敵の上空を通過する。
 颯輝の着地とほぼ同時に、今度はマックスが飛び付き、隠されていた爪が露わとなって敵に襲いかかった。
素早い一撃は、相手の右目に深い傷を負わせた。

「うらぁ!!」

 敵は苦悶にのた打ち狂ったかのように頭を振っている。颯輝は敵の顔面がこちらを向いた瞬間、
その横っ面に渾身の力を込めて左から拳を叩き込んだ。右目を潰した魔物の堅い皮膚に、確かな手応えを感じた。

 敵は一瞬ふらつくと、胴体から地に倒れ込んだ。その様子が、颯輝にはスローに見えた。

「やったか……?」

 乱れた呼吸を整えつつ、颯輝は倒れた魔物の様子をうかがった。不用意に近づくのは危険だ。
 マックスが頭を振って尾を一度揺らした。長めのそれはしなやかな動きで体のバランスをとっているかのようだ。
見たところ、大きな怪我はなさそうだった。
 魔物は苦しげに浅く早く呼吸を繰り返し、時折前足がびくりと痙攣を起こしている。
 それを見たマックスは小さく唸り警戒を露わにするが、颯輝はそれを制した。

「…もう帰ろ、マックス」

 散歩を続行する気にはなれなかった。
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風唄 本編7 [2008年06月18日(水)]
言葉通り、すぐにでも旅立ちたい気分だった。300年分のブランク。
それに対して不安を感じない訳ではなかったが、スタートで足踏みしたくなかった。

「大丈夫なのか?」

 北斗が心配の眼差しを向けてくる。颯輝はそれが少し嬉しくて、顔が別の種類の笑顔に変化するのを自覚した。

「大丈夫!って言いたいところだけど、それはやってみないとわかんねーからなぁ」

 北斗はその笑顔に応える事なく目を細め、眉根を少しだけ寄せている。何を考えているのだろう?颯輝は続けた。

 「オレにとってはたった1人の家族。大丈夫じゃなくても、駒馳に会えるなら乗り越えてやるって」
「…とんでもないシスコンだな」
「うるっせーな」

 照れながら笑う颯輝に、北斗は声を出さず口角を少しだけ上げてからまたもとの表情に戻った。

「旅立ち、少し待て」

 え?という言葉が出る前に、北斗がまた言った。

「そうだな…今日の夜まで待て。一代目の言った意味、情報を持ってからだって旅立ちは遅くはない。俺が家の文献から調べてやろう。…颯輝の話聞いて、俺自身考えたい事がでてきた。どうだ?」
「お…おぉ…」

 反射的に頷いてしまった颯輝だが、それだけ北斗の眼差しは真剣だった。
 確かに、自分が居た時代より300年の月日が流れたらしいこの世界。
300年という時の流れは、世界が変わるには十分な時間なのだろうか?

「肉体の時を止めた頃はどんなものだったか知らないが、この時代、外にいる魔物の数は少なくない」
「…マジで?」

 頭の中を見透かされたように、北斗の声が降ってきた。以前は街や村の外でも、そう簡単に魔物と遭遇する事なんて少なかったような気がする。

「夜まで、散歩でもしてきたらどうだ?」

 北斗は立ち上がった。髪の毛はいつの間にか殆ど乾いている。
あまり陽の差し込まない岩窟ではあるが、入り口を見遣ると太陽はもうだいぶ高くなっていることが窺える。
 続いて颯輝も、膝の上で腹を出し完全リラックス状態のマックスを下ろした。勢いをつけて立ち上がり身震いをした。
久々に立ち上がった為だろうか、少しふらついた後首と肩を回す。良好だ。
 北斗はもう陽の当たる所まで出ている。砂利に足をとられながらも、少し小走りに颯輝が続く。
足元の水たまりが跳ね、彼のふくらはぎを濡らす。

 頬に暖かさを感じて見上げると、反射的に目を細めてしまった。
 そこにある空は、変わらず青かった。

 大きく息を吸う。
 新鮮な空気が肺の中に立ち込めて、自分の存在ではなく、世界の存在を実感したような気がした。
 この青は、どんな塗料を使用しても表現出来ないと思う。恐ろしく澄んだ空に、颯輝は暫し見蕩れた。

「じゃ、夜に。勝手に出発するんじゃないぞ」
「………あぁ」

 心ここにあらず、そんな返事に北斗は尋ねた。

「そんなに空が懐かしいか?」

 漸く颯輝は空を見ることを止め、北斗と向き合った。
 この空に似つかわしい、良く晴れた笑顔だった。
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風唄 本編6 [2008年06月18日(水)]
「………は?」

 受け入れるのは難しい話だ。颯輝もその話を初めて聞いたときは冗談にしか聞こえなかった。
 世界には世界観があって、その範囲の中で生き物は住まう。進化が新たな世界観を生み出しても、それは変化の延長上にあるもので、
劇的な衝撃ではないはずだ。だから人々は知らぬ間に囲いをつくる。箱の中で暮らす。
その天井にある小さな窓からは、偉大な空しか見えない。手が届かないと判断した人々は、諦める。手を伸ばすこともしないまま。
 だが、どうだろうか。颯輝と大星は、外の世界を偶然ながら垣間見た。
受け入れる事ができずに目を閉じ耳を塞ぐのは、確かに安全な道だろうが、いつまで経っても真実には到達しない。
それに颯輝は、『そこ』に大事な存在を手放してしまった。自分にとっての道は、もう箱を壊すことしかない。

 北斗は怪訝な顔のまま目をしばたいている。疑問符は、それこそ無限に湧き出るものだ。

「……見たこともない世界なのに、どうしてそこ妹が要るってわかるんだ」
「仮説だ、って大星は言ってた」
「その仮説とは?たかだか仮説程度のものにあんたは…颯輝は乗って300年も凍ってたっていうのか?」
「うん」

 至極簡単に肯定してしまうその姿は、まるで子供だった。しかし笑顔に彼の自信が見られる。

「大星はな、すっげぇバカっぽいんだけど…いやバカなんだけど、信じていいんだ。それにその時のオレには、
もう信じるしか他になかった」

 北斗は額に手をやり、ため息ともつかない、声のような息を吐いた。

「信じるに値する程の仮説だったんだろうな?」
「うーん…大星が自信満々だったから信じたのもあったしなー」
「とにかく話してくれ」

 颯輝はあの時を振り返った。大星が言うおおよそ冗談だと思った話は、突き詰めて行くと、成る程、仮説とは言うものの筋が通るものだった。妹、駒馳を助けられる唯一の方法と、彼は言った。

「ヒントは神話にあるらしい」
「神…話?」
「うん。オレはちゃんと読んだことないけど。神様が二つの世界を作って、仲良くやってたんだけど結局はダメだったって」
「あ…ああ、それならだいぶ昔に読んだことがある」

 北斗はその内容を思い出そうと試みたが、霞んだように断片的にしか出てこない。300年もの時を経ても、
やはり神話は神話のまま、変えられることなく伝わっているのものなのだ。しかし、神話とて人の想像により生み出された物語。
 偉大なる先祖は、そんな夢物語からヒントを得たという。

「その二つの世界のうち、片方がオレらの世界、もう片方が駒馳が行った世界なんだ」

 そう言い切った颯輝は淡々としていて、不安など皆無のようだ。

「……どこにそんな確証がある」
「確証…てか駒馳がいなくなった場所」

 返答は早かったが、颯輝の声のトーンが俄かに下がった。静かな声に、感情を読み取るのが難しい。

「……?」
「大聖堂」

 北斗はまた記憶の糸を手繰った。確かあの場所もまた、神話に登場する場所だった。
熱心な者、そうでない者も大多数がこの神話がルーツのスレプス教(レイラへ:宗教の名前はこれでいい?)を信仰している。
大聖堂は今、神が最後に降り立った場所として信教の象徴となっており、人々は子供が産まれた時には願いを込め、
深い悲しみに遭遇した際には助けを求め、人生の折り目毎にこの場所を訪れて祈りを捧げる。裕福な者は遠路遙々足を運ぶ事も少なくない。そんな場所だ。

「駒馳に繋がる道がそこにあるはず。とにかく、行ってみようと思うんだ」

 颯輝は自分の手のひらの感覚を確かめるかのように、握っていた拳をゆっくりと開いた。
マックスは再び彼の膝の上に横たわり、静かにその様子を見ている。
 北斗は頭をわしわしと掻いた。

「…まぁ百歩譲って…その話が本当にだとして、最も重要となる項目が抜けている」

 考えを無理矢理たたみかけた頭はボサボサに乱れてしまった。

「どうして300年も超える必要があった?」
「あ、それオレも大星に聞いたんだ」
「それで?」

 颯輝は友の呆れたような声色を思い出した。

「お前も本くらい読めよ、って」

 大星と言う人物は、自分の考えを颯輝にあまり詳しい事は話していないようだ。それは友への信頼がなせる技なのか。
北斗には、良く分からなかった。

「…文献にあること全てをを鵜呑みにしてはいけないと思うが」
「まーな」

 呆れる新たな友人に声を出して笑って見せた。
 颯輝は大星を疑う気は毛頭無かった。彼は数少ない自分に残された僅かな道の始まりを叢中から見つけ出してくれたようなものだった。
これから何があろうともその道を見失ってはならない。だから、信じられないような現実だって、笑い飛ばして突き進んでやる。
そう誓って、封印を施された。

「大聖堂に行くって言ったな」
「うん」

 ひと呼吸おいた。

「オレがまた動き始められるのを300年に設定したってことも、大星になんか考えがあったんだと思う。
だから、その理由全部はわからないけど…オレ、今すぐにでも行かなきゃ」
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風唄 本編5 [2008年06月18日(水)]
「七…代……」
「正確には現当主の親父が六代目で、俺が次を継ぐ予定になってる。始祖、大星は文献によるとおよそ300年前の人間だ。本当にあんたの言う大星と同一人物であれば…」
「や、多分その通りだろ。その顔、大星の血ぃがっつり受け継いでるとしか思えないしな」

 颯輝は自分が眠っていた岩窟の奥を見つめた。自分が入った氷はすべて水になり、今そこには何もない。
 大星は一体どこまで見通していたのだろう。占術は、人々の行く先の吉凶を占うものであり、未来予知術ではない。
いくら強い力の持ち主であれ先の運命を知ることはできないと、そう本人の口から聞いたことがある。
けれども今いる自分は、確実に彼と自分が望んだ未来であり、読み通りに調整された現実であるように感じる。
颯輝は勝ち誇るその顔を想像しつつ、友人とそっくりな面立ちをした新たな友人を見た。彼にはありえない、眉間の皺が颯輝を笑わせた。

「しかしあいつの遺伝子濃いんだなぁー」
「…そんなに似てるか」
「うん。オレの氷を溶かしてくれたのも…えっと、北斗なんだろ?それって多分、力も凄いってことだ」
「………」

 北斗の顔の翳りが増し、颯輝を見ていた目は脇へと外された。前髪が額に張り付いている。浮かない横顔に、颯輝は自分は何か失言をしたのではないかと少し慌てた。

「…?えっと…似てるの嫌なのか?」

 控えめに紡がれた颯輝の困惑の言葉に、北斗は小さく息を吐くだけに止まり、気怠そうに視線を戻した。

「あんた、どうして300年も氷に入っていた?」

質問に応じない言葉ではあったが、颯輝は肩を竦めるだけで、気を悪くした様子ではなかった。

「あんたあんたってオレ、名前教えたと思うんだけどなぁ?」

 口を尖らせ抗議する颯輝を北斗は不思議に思った。この少年は、どうやら時を越えたことをうっかり忘れ、北斗の事をそっくりな自分の友人と思っていたようだ。浮かべていた笑顔はそれ故のものだったと理解できるが、現実に気づいた今も彼の笑顔は曇らない。北斗にとって警戒の対象であるはずの颯輝から親しげに投げかけられる言葉のひとつひとつに、気持ちが弛んでいくのを感じた。それは、受け継がれている自分とそっくりらしい先祖の血に混じる念だろうか。

「はーやーてーだっつの。名前で呼んでくれないの、寂しいぞ!」

 北斗は直感的に違うと思った。それは、この少年、颯輝の能力そのもののように感じる。

「…颯輝、悪かった」
「ん!」

 北斗も少し口元を緩ませ、それを見た颯輝は満足の笑みを向けて応じた。解れた緊張を察したのかそうでないのか、傍らのマックスが体を震わせ水気を飛ばし、後ろ足で耳の後ろを掻いている。二人は各々飛沫に驚きの声を上げた。
颯輝が人差し指でマックスの頬をつつくと、気持ちよさそうに目を細め颯輝の脚にすり寄る。
 数秒の沈黙の後、北斗が再び切り出した。

「で、聞いても良いか?」
「あー…うん」

 はぐらかした訳ではないが、どう説明したらいいか分からない。自身も良く理解していない事をどうやって他人に伝えればいいのか。
信じてくれるかどうかも分からない。しかし、信じなければ信じて貰うこともできないと颯輝は思う。
何か運命的な理由や原因があるのかないのか、とにかく封印を解いてくれたのは他でもない、北斗である。
姿形が自分の殆どを理解してくれていた親友と似ているからと言って、彼もそうだとは限らないが、颯輝は北斗を信頼したかった。
受け入れてもらえなくても、いい。

「家族を助けたくて」
「家族?」
「うん」

 颯輝の短めの髪から一滴落ちて、膝に座るマックスの頭ではじけた。耳がぴくりと動く。

「妹。駒馳っていうんだ」

 北斗が、今度はその視線を逸らすことなく颯輝を真っ直ぐに見つめる。一言も逃すまいとして全身を耳にして颯輝の言葉を聞いている。
 颯輝はマックスに視線を落とした。不安を湛える瞳は心を隠せない。異邦人である自分が、果たして受け入れてもらえるのだろうか。
マックスは体勢を変えぬまま、首を回して颯輝を見つめ、ぱたんと尾を一振りした。 がんばって。
 そう心を伝えてくる小さな相棒は、颯輝の膝に体の殆どが乗ってしまう程しかない体つきであるのに、
心は無限の広さを持っているように感じる。マックスといい、大星といい、颯輝は己がいかに恵まれているかを感じずにはいられなかった。

「本当は、オレも良く分からないんだ」

 全ての真実は目に見えるものだ、と無意識のうちに思ってしまう。そうして人は無知のまま日々生き、死んでいく。
真実を掴みたくば、柔軟さを持たなければならない。その時受ける衝撃は計り知れずとも、後に手に入る「それ」に価値を見出すために。

「自分が生きている世界は本物で、確かだよな」

あの時親友が話した言葉そのままに切り出した。

「でも、誰も知らないだけで、他にも世界があったらどうする?」

 北斗の瞼が僅かに下がり、細められた瞳から困惑が滲むのがわかる。

「う…ん…要領を得んな。それが助けたい妹と関係が?」

 颯輝は少し間を置いて、小さく頷いた。どこから話したら良いのかがわからない。ファンタジックにも思える言葉にも北斗は耳を傾け、
真剣な表情を崩さない。

「そうだな…それは未開の地、という意味でか?」
「うーん、違うかな。そのまんま、世界って意味で。二つの世界は確かに存在してるんだけど、お互いまったく知り合わない」

 北斗は想像した。知らない世界には知らない生き物が存在し、それらが我々のように生活している。
 人間の想像力とは、果たして本当に無限なのだろうか。他人はどうだか知らないが、北斗の答えはこうだった。

「…わからない」

 知らなければ、想像することもかなわない。出題者は、そうだよな、という呟きと共に一度頷く事で肯定した。
寄り添うマックスの頬を撫でている。その質問の意図も質問そのものの意味ですら、北斗には分からない。
だから聡明な彼ですら、颯輝の次の言葉まで理解が及ばなかったようだ。

「そこの想像もつかないところに、駒馳はいる…らしい」

 そしてまた二人の間に沈黙が支配する。

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風唄 本編4 [2008年06月18日(水)]
無二の親友は久々の再会だというのに、喜びを露にする己とは裏腹に、彼は強張った顔で見詰めてくる。
 颯輝はたまらず声を掛けた。

「なぁ…大丈夫か?」

 それは、つい先程自分に向けられた台詞であったはずだった。それでも彼は動かない。

 様子がおかしい。

 颯輝はいよいよ不安になった。
 改めて周囲を見渡すと、そこは岩窟。
 ここの場所を選んでくれたのは他でもない、彼である。ここでずっと、忘れないための夢を見ていた。夢を見せてくれたのも、その夢を終わらせてくれたのも目の前にいる友人であるはずで、何も驚くことは無い。何故彼が張り付いたように動かなくなってしまったのか、颯輝には分からなかった。肩に触れてもう一度、友の名を呼ぶ。

「大星ってばー!」
「……じゃない」
「…?」
「あんたの言う大星って人物は…」

 呼びかけに対する返答は、思いのほかはっきりとした口調だった。表情は険しいものの、その目は真っ直ぐと颯輝を見ている。ただその言葉は今ひとつ曖昧で、何を言わんとしているのかはよく分からなかった。不安が増して、見詰め返すしかなかった。

 突破口を与えてくれたのは小さな獣。太ももの辺りに何か触る気配がした。
 視線を落とすと、そこには微笑んでいるようにも見える、相棒の姿があった。

「マックスぅ〜〜!!お前も起きたんだな!」

 爪と牙をもつその体躯の持ち主は小さな額を颯輝の頬へ擦り当て、歓喜の念を示してくる。種族の違いなど関係が無い、言葉が無くったって通い合える、一緒に眠っていてくれた頼れる相棒だ。ひとしきり触れ合い、喜びを分かち合った。
 すると突然、マックスは小さく声を上げた。颯輝と友人を交互に見、何か訴えてくる。

 顔をあげると、そこには未だ険しい顔をした目の前の人。
 小さな頃から親しいはずの友は、あの時代と変わらずそこに―――…
 そして颯輝は気づいた。


「…………大星じゃない!!!」


 我ながら、気づくのが遅かった。




 人として、どうしようもなく堕落した部分のある友人ではあったが、魔の能力に非凡な才能があった親友、大星。
 彼はまた聡明な人物でもあったために、颯輝に時を越える術を施した。
 それには問題もあったはずであり、大星がその問題を見越さないわけが無かった。
 しかし颯輝はそれについて、特に何も思わなかった。
 形容する言葉が見つからない。信頼という言葉は、あまりにも安っぽい。
 大星はいつもの不敵な笑みを浮かべて言うのだ。
 その顔を見ると、颯輝は得体の知れない絶対感を感じる事ができたから。
 あ、じゃあ、だいじょうぶなんだな、と思うことができたから。


『ま、俺様に任せておきなさいって』


 それが彼の決まり文句だった。




 「ごめん、びっくりさせたよな、多分。えっと、あんたがオレの親友…大星ってんだけど、あんまりそっくりだったもんで。それも分かってたはずなんだけど、混乱しちゃって…ほんと…ごめん」

 とりあえず詫びるしかなかった。他人の空似にしては似すぎているが、彼が今この時代にいるはずがない。教えてくれた小さな
 相棒に感謝した。

「………」

 青年は再び黙した。ただし、険しさが幾分か解れている様な気がするが、その目はまだ困惑で満ちている。当然だろう、おそらくこの青年は、自分が氷の中にいたのも目撃したのだろうし、目覚めの現場も居合わせた。さらには、目覚めたその人物…自分に、意味不明なことを言われたのだから。颯輝は申し訳なさでいっぱいになった。

 辺りに沈黙が訪れる。
 耐え切れず、颯輝は問いかけた。

 「なぁ、名前、なんていうんだ?オレは」
 「ハヤテ」
 「うん!………って、え!?なんで知って…」
 「俺の中に何かがいた。そいつがあんたを呼んだんだ」

 青年の声は静かで落ち着いていた。シンプルな説明ではあったが、颯輝には理解ができない。小難しいことを考えるのは不得意で、そういうことは、この目の前の人物そっくりな親友の分野である。
 そう考えてみると彼は、声もよく似ている。

「俺の名前は北斗」

 青年は、混乱する颯輝にかまわず自己紹介を続けた。その顔は例の親友よりも幾らか引き締まっていて―――これは浮かべる表情の違いによるものか、颯輝の混乱は更に増した。
 北斗の表情は、先程より幾分解けたように強張ったものではなくなっている。ただ困惑というものか、解せない、といった目で手元を見ている。彼の思考は推測、予測をし、颯輝の存在を見抜かんと脳内は凄まじい勢いで回転しているのだ。

「あ、うん…北斗、北斗だな。よろしくな!」

 自分の問いに答えくれたのに、それに返事をしないとは礼儀に反する、そう思って颯輝は混乱する頭を畳み掛けて、無理やり返事をした。名前を繰り返さないとお世辞にも良いとは言えない自分の記憶容量やその機能では、入ってくれそうに無かった。
 北斗、覚えたぞ、心の中で確認していた颯輝の耳に、当人の声が響いた。

「俺の名前、何故あんたの名前を知っているか。あんたの質問には答えた。今度は俺からの質問だ。答えてくれ、颯輝」

 先程の沈黙が強張った表情が嘘のように、北斗の言葉は淀みなく、有無を言わせない響きがあった。ふと、相棒マックスに目を遣ると、彼は目で先を促した。
 …応えてもいいと思う。
 マックスは確かにそう言った。

「おう、なんだ?」

 颯輝は動揺しつつも、できる限り明るい口調を心がけて応じた。
 この青年は確かに大星とは別人だ。姿と声が似ているだけで、別個の人間だ。話し方は全くと言って良いほど対照的で、おそらく性格も似ていないだろう。だがしかし、その思考回路には抜け目が無いようなところに、親友の気配を感じずにはいられなかった。大星も、ちゃらんぽらんに見えてこれがなかなかの聡明さをもっていた。
 そんなことを考えていたから、青年―――北斗の口からでた言葉に少しばかり驚いた。

「お前の友人は…大星というのか?」
「…人違いは…オレ、もう謝ったぞ?」

 目を丸くしつつも、情けない声で抗議する。そこからもう答えは読み取ったらしい、北斗は気にする素振りも見せず、尚も質問を続ける。
 その問いは、颯輝を更に驚かせた。

「お前は…過去の人間か」

 答えてくれ、と言った割には確信めいた語尾下がりの声。
 そしてやはり、彼の頭脳は優秀らしい、初めの質問とは全く関連性がないようにも思えるが、そうではないようだ。
 颯輝が頷いのを見て、やっぱり、と北斗は殆ど独り言のような小さな声で呟いた。
 確かに自分は氷に包まれていた。それだけでも自分は過去の人間だと言うことは、想像に難くない。だがしかし、どうしてそこまで確信を持ってして言えるのだろうか。『氷』のみでの証明では、些か不十分な気がする。

 「なんでそう思ったんだ?確かにオレ、凍ってたけどそんなんでどうしてでそこまで分かったんだ?」

 彼は下を向いたまま答えない。苦虫を噛み潰しているような顔で、おそらくまた思考しているのだろう。答える気はないのだろうか。
 いくら親友に似てるとはいえ出会ったばかりだ、颯輝に彼の内心までは読み取れない。自分は何か言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか。
 不安を察知したのか、マックスが音も無く近づいてきて、傍らに静かに腰を下ろした。その温かい熱は、湿った衣服を通してもなお、しっかりと伝わってきて、颯輝を安心させた。
 だいじょうぶだよ。
 言葉を持たぬ相棒は、いつだって優しかった。


 三度青年は沈黙した。
 今度は颯輝もその沈黙の殻を破ることは無く、マックスの体を撫で、北斗から答えを出してくれることを待った。

「答えよう。黙っていて悪かった。…認めたくなかったもんで…な」

 声に反応し顔を上げると、そこには悟ったように落ち着いてる一対の双眸があった。
 薄い茶色をしたその瞳は琥珀のように透き通っていて、静かに現状を見極めている。
 その瞼をそっと伏せ、北斗は深く、ため息をついた。
 己の推理を呈する、ひとつの儀式のように。



「俺も大星という人物を知っているんだ」



 颯輝は驚いたが、何も言えなかった。吐き捨てるように呟かれたその顔は、痛みに耐えているような表情だった。
 そして次に発せられる言葉にさらに驚く羽目となるが、同時に彼の沈黙の意味も悟ることとなる。

 

「七代前の…俺の一族の先祖に当たる」



 親友と彼が、似ていてもおかしくはなかった。
08:29 | この記事のURL
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