先週(5/2付)のJAMA(アメリカ医師会雑誌)に、
腎不全患者の新規透析用動静脈グラフト術後経過に対する魚油サプリメントの効果を示したランダム化比較試験が、カナダのグループから報告されていました。
(JAMA. 2012 May 2;307(17):1809-16.)
腎不全による人工透析患者では、
酸化ストレス障害や慢性炎症によって心血管リスクが高くなり、死亡率が高いことが知られています。
機能性食品素材・サプリメントでは、抗炎症作用や抗酸化作用を有する成分があり、人工透析患者に対する効果が期待されます。
例えば、疫学研究では、魚油/オメガ3系脂肪酸の摂取が多いと、人工透析患者の生存率が向上する、というデータが知られています。
(
Am J Kidney Dis. 2011 Aug;58(2):248-56.)
人工透析患者において、人工血管動静脈シャントは重要なオプションですが、閉塞などの問題があります。
さて、今回の研究では、人工透析で用いられる人工血管用皮下動静脈瘻(シャント)の開存維持率に対する魚油サプリメントの作用が調べられています。
具体的には、ステージ5の慢性腎臓障害成人患者201名を対象に、
1日あたり4グラムの魚油サプリメント
あるいは、
偽薬が、
グラフト設置7日後から投与され、
12カ月間のフォローアップが行われました。
対象患者は、女性50%、白人63%、糖尿病患者53%です。
解析の結果、
主アウトカムの透析用動静脈グラフト開存維持率に関して、両群間に有意差は見出されませんでした。
(ただし、魚油サプリメントでは、偽薬に比べて、リスクが低い/開存維持率が高い傾向にあります。)
(魚油 vs. 偽薬;48/99 [48%] vs 60/97 [62%], respectively; relative risk, 0.78 [95% CI, 0.60 to 1.03; P = .06])
また、グラフト閉塞(graft failure)率は、
偽薬群に比べて、魚油サプリメント投与群において、有意に低く、42%のリスク低下が見出されました。
(3.43 vs 5.95 per 1000 access-days; incidence rate ratio [IRR], 0.58 [95% CI, 0.44 to 0.75; P < .001])
(つまり、魚油サプリメントを投与するほうが、新規グラフトが維持される、ということになります。)
さらに、魚油サプリメント投与群では、
血栓症のリスクが半分に低下し、
(1.71 vs 3.41 per 1000 access-days; IRR, 0.50 [95% CI, 0.35 to 0.72; P < .001])
グラフトに対する介入術の必要性も有意に少なくなりました。
(2.89 vs 4.92 per 1000 access-days; IRR, 0.59 [95% CI, 0.44 to 0.78; P < .001])
その他、
魚油サプリメント投与によって、
心血管イベントフリーの生存率の有意な改善、
(hazard ratio, 0.43 [95% CI, 0.19 to 0.96; P = .04])
収縮期血圧の有意な改善(低下)
(-3.61 vs 4.49 mm Hg; difference, -8.10 [95% CI, -15.4 to -0.85]; P = .01)
といった効果が認められました。
以上のデータから、
人工血管による新規グラフト術において、
魚油サプリメントの投与は、
開存率(native patency)に対して有意差は示されませんでしたが、
副アウトカムでは、
グラフト開存率の改善、
血栓症の発症率の低下、
心血管イベントリスクの低下、
といった効果が示唆されます。
今回の研究では、主アウトカムで有意差がないので、ネガティブデータとして見出しだけが独り歩きしそうな印象です。
(特に、サプリメントについて、ネガティブデータを好んで掲載するJAMAですので。)
しかし、データをよく見ると、魚油サプリメントによる一定の効果が期待できると考えます。
作用機序として、オメガ3系脂肪酸による抗炎症作用が推察されます。
EPAや
DHAなどのオメガ3系必須脂肪酸は、抗炎症作用・動脈硬化予防作用、認知機能改善作用、抗うつ作用など多彩な働きが示されています。
EPAもDHAも、どちらも健康維持や疾病予防に重要です。
一般に、DHAは脳の栄養素、EPAは血管の栄養素といえるでしょう。
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