今月の薬理学研究の専門ジャーナル(電子版)に、サプリメントの成分による肝臓の薬剤代謝酵素への作用を調べた基礎研究が、オランダのグループから報告されていました。
(
J Pharm Pharmacol. 2014 Apr 15.)
医薬品と食品成分との相互作用に起因する有害事象については、
1990年代のカルシウム拮抗剤(降圧剤の1種)と、グレープフルーツ果汁成分との相互作用が明らかとなり、
注目されるようになりました。
(現在、降圧剤の一部では、グレープフルーツの摂取をしないように、という注意喚起が行われています。
過度な降圧作用が生じうるためです。)
次に、医薬品とサプリメントとの相互作用では、
セイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)と、一部の医薬品との間で相互作用による有害事象が知られるようになり、
2000年に当時の厚生省から、注意喚起の通知が行われています。
これらはいずれも、肝臓での薬剤代謝酵素であるチトクロームP450の特定の分子種に対して、
食品やサプリメントの成分が作用し、その活性を誘導したり阻害したりするため、
同じ分子種によって代謝される医薬品と併用すると、相互作用が生じる、
つまり、医薬品の作用が増強されたり減弱されたりする、という機序です。
相互作用による有害事象に関して、
サプリメント側の原因として最多の成分は、セントジョーンズワートです。
セントジョーンズワートは、CYP3A4で代謝される医薬品と相互作用を生じえます。
医薬品側の原因として最多の成分は、ワルファリン(ワーファリン)です。
ワルファリンの代謝酵素は2C9です。
なお、相互作用が生じればすべて臨床的に問題というわけではありません。
一部の治療閾値が狭い薬剤では注意が必要ですが、培養細胞を用いたシャーレ上の
in vitro系のデータが、そのまま臨床と同じ意味ということではありません。
ただし、相互作用はすべて問題というわけではありません。
たとえば、スタチン剤(コレステロール降下剤)を服用している場合、内在性コエンザイムQ10値が半減することがわかっています。
このことが、ミトコンドリア障害を生じて、筋痛症などの副作用を生じる一因とも推定されています。
そのため、スタチン剤を服用中の場合、コエンザイムQ10サプリメントの摂取は必須です。
(なお、医薬品のノイキノンは、用量が30mgと少ないため、不十分です。
サプリメントで、100mg前後の摂取が必要です。)
さて、
今回の研究では、
補完代替医療で用いられるサプリメントやハーブ成分について、肝臓チトクロームP450の2C9 (CYP2C9)への作用が調べられました。
具体的には、
in vitro系にて、
主なサプリメント成分14種類について、
CYP2C9の基質の7-methoxy-4-trifluoromethyl coumarine (MFC) とトルブタミドへの代謝への作用が測定されています。
(CYP2C9によるMFCの代謝へのサプリメントの影響、および、
CYP2C9によるトルブタミドの代謝への阻害作用の測定。)
解析の結果、
マリアアザミ(milk thistle)によるCYP2C9への阻害作用が見いだされました。
この作用は、マリアアザミに含まれる主要成分のsilybinによることも示されています。
また、緑茶でもCYP2C9の阻害作用が示されています。
以上のデータから、
in vitro系では、マリアアザミの成分および緑茶によるCYP2C9の阻害作用が示唆されます。
今後、臨床的意義の検証が必要とされる分野です。
なお、臨床的には、欧州において、大量の緑茶を摂取したワルファリン服用中の患者でINRの変動が症例報告として知られています。
一方、マリアアザミについては、安全性が高いハーブとして知られており、相互作用による有害事象は現在のところ、知られていません。
マリアアザミは、多くの臨床試験で、肝保護作用が示されており、
アセトアミノフェンのように、肝毒性のある医薬品と一緒に摂取することが推奨されます。
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