今月の神経学の専門ジャーナル(電子版)に、脳卒中のアウトカムと、血中コエンザイムQ10値との関連を検証した臨床研究が、イランのグループから報告されていました。
(J Mol Neurosci. 2018 Aug 9.)
コエンザイムQ10は、脂溶性抗酸化物質であり、ATP産生作用も有しています。
心疾患をはじめとする生活習慣病のリスク低減の目的で、広く利用されています。
コエンザイムQ10は、生体内でも産生されますが、加齢とともに体内の産生量が減少し、それとともに、生活習慣病のリスクが高まるという相関が知られています。
また、同年代で比較すると、糖尿病などの生活習慣病患者では、同年代の健常者に比べて、内在性コエンザイムQ10が減少している、という相関が知られています。
日本では、コエンザイムQ10は、もともと心不全の治療薬として認可されています。
アメリカでは、白人男性で心臓病リスクが高いことから、コエンザイムQ10は心臓病予防のためのサプリメントとして広く認知されています。
酸化ストレスと抗酸化能とのバランスは、虚血性脳卒中の予後にも関係すると考えられます。
内在性のコエンザイムQ10は、内在性の抗酸化成分として働き、虚血性脳卒中の発症後の臨床的な神経学的所見にも関与すると思われます。
そこで、今回の研究では、
脳卒中の症状発症24時間以内の患者において、
血中コエンザイムQ10値、抗酸化関連指標が調べられ、臨床所見との相関が検証されん斉田。
具体的には、
患者76名と、健常対象者34名を対象に、
血中コエンザイムQ10値(CoQ10)、抗酸化能としてSOD、酸化ストレス指標としてMDAが測定され、
神経学的所見として、
NIHSS(NIH脳卒中スコア),
modified Rankin Scale (MRS;脳卒中の概括予後評価尺度),
MMSE(認知機能検査)
が調べられています。
解析の結果、
まず、
脳卒中患者では、
健常者に比べて、
血中コエンザイムQ10値と、抗酸化能であるSODが有意に低値であり、
(27.34 ± 35.40 ng/ml, 18.58 ± 0.76 μ/ml, respectively; p < 0.05)
MDA値は、有意に高値でした。
(38.02 ± 2.61 μm, p < 0.05)
また、
脳卒中での神経学的所見の指標であるNIHSS とMRSは、
血中コエンザイムQ10値と、有意な負の相関が認められました。
また、
抗酸化能であるSODと、神経学的欠損スコアとの間にも同様の相関が見出されました。
(抗酸化能が高いと、神経学的障害の所見が低いという相関になります。)
さらに、血中MDA値は、神経学的指標3種類のすべてと、有意な強い相関が認められたということです。
(つまり、酸化ストレス指標である過酸化脂質が高いほど、神経学的症状が強いという相関です。)
以上のデータから、
血中コエンザイムQ10値は、他の抗酸化能および酸化ストレス指標とともに、
脳卒中のアウトカムとしての臨床的神経学的所見に関連することが示唆されます。
今後、コエンザイムQ10サプリメントの投与による脳卒中の1次予防や2次予防、および予後への作用に関する検証が期待される分野です。
コエンザイムQ10は、ATP産生作用や抗酸化作用を介して、さまざまな生活習慣病に効果が示されています。
健康な人や未病の状態では、1日あたり90mg〜110mg程度をベーシックサプリメントとして毎日摂取します。
一方、何らかの疾患があり、補完療法として用いる場合には、1日あたり100mg〜300mg程度の利用になります。
欧州の研究では、
がん患者にコエンザイムQ10を投与することで、生存率が向上したという報告もあります。
また、
臨床的には、がん患者では、放射線や化学療法といった治療あるいは終末期において、
がんに関連した倦怠感(Cancer Related Fatigue:. CRF)が高頻度に出現することが知られています。
コエンザイムQ10には、酸化型(=ユビキノン,ubiquinone)と還元型(=ユビキノール,ubiquinol)があります。
還元型CoQ10のほうが、酸化型CoQ10よりも体内で利用されやすいと考えられます。
(酸化型CoQ10は、体内に吸収された後、いったん還元されてから、利用されます。)
コエンザイムQ10に関するこれまでの研究の多くは、酸化型(=ユビキノン,ubiquinone)を用いています。
したがって、一般的には、生活習慣病の予防やアンチエイジング目的に関して、
酸化型CoQ10のユビキノンの摂取で十分な効果が期待できます。
一方、特定の疾患に対して用いる場合、あるいは、体内の生理機能が低下している高齢者の場合には、
還元型CoQ10の利用が推奨されます。
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