朝、五穀クラッカーと熱い豆乳オーレで軽く朝食を終えた私は、母から頼まれていた実家の樹木の剪定をすることにした。
高い脚立を持ってきて、伸びすぎてアホ毛のようになっている枝を切りそろえ、無駄な枝を刈払い、枝に絡みついている蔓草の類を除去した。
この蔓草が結構曲者で、かなりしぶとく巻き付いている。まず蔓草の根元を探索し、根本を切断してから太い部分を持って何回も強く引っ張る。途中で切れてしまうものもあってかなり難儀した。高いところに巻き付いている蔓は脚立の最上段近くに足をかけて不安定な中での作業だ。天気も良く12月とは思えぬ気温の高さで、一通り終えると汗びっしょりになった。
母とひとしきり世間話をし、自宅に戻って昼食を摂った後は近くのジムに行きトレーニングに励んだ。限界まで追い込んでトレーニングを終えると、ホームセンターへ
ミネラルウオーターの買い出しに行った。
帰り道、ふと海が見たくなって海岸へ向かった。
いつも海を眺める場所に着くと、何人か釣りをしている。私は車内に一本だけ残っていたヘンリー・ウインターマンズの葉巻を咥えて火をつけると車外に出た。
岸壁際まで行って海面をのぞき込むと、海はいつものように暗緑色の波が規則正しく打ち寄せている。今は引き潮にかかっているようだ。遠くの海面を見るとイナ(ボラの幼魚)が時折跳ね上がっている。
西の空を見上げると、やや力を失った太陽が薄い雲の向こうに輝き、その下の海面には明るく白っぽいオレンジ色の道ができている。
私は車に戻ると車窓を全開にし、心地よい海風を受けながらボーっと釣り人を眺めた。
ややあって一台の車が停車すると、中から一人の老人が孫らしき子供を連れて海を眺めにやってきた。子供の一人は自分で歩き、一人はまだ一歳にもならないくらいだろうか、老人に抱きかかえられている。
私も定年を過ぎ、もし孫ができたら、同じようにこの慣れ親しんだ海を見に来るのだろうかと思った。
老人たちが立ち去った後も、私は葉巻を燻らしながら海を眺めた。また子供と一緒に釣りにこなければと思った。
葉巻が短くなり、持つ指が熱さに耐えきれなくなった私は、葉巻を灰皿に捨てると車のエンジンをかけ、海を後にした。