プロフィール
リンク集
http://www.dhcblog.com/sakuraharuka422/index1_0.rdf

ログイン
Mypagetopに戻る
イシノキオク 50 [2007年03月13日(火)]
 ニクシミノムカウサキ 

絆がいなくなってから、早くも1ヶ月が過ぎようとしていた。学校に行くと音衣は今でもふとした拍子に絆が現れるのでないかと思えて仕方がなかった。

地上はまだ寒い日が続いていたが、そんな中にも少しずつ春は生まれ、凍える季節をじっと耐え忍んでいた桜の枝先にもわずかながらも小さな蕾が見受けられるようになっていた。

生き物全てが春を待ち望んで期待に胸を膨らませている。そんな早春の朝のことだった。

「わぁーーー!!」

怒りと嘆きに満ちたその叫び声に気づく者は誰もいなかった。

声の主は誕生日の朝を迎えていた天翔のものだった。

生まれたときから地下宮で育ち、宝王の次の地位を持ち、宝人官たちを臣下とし、自由奔放に不自由なく生きてきた天翔は、戴冠式を最後に地下宮から出て行かなくてはならないことが不安であり、不満であり、苦痛ですらあった。

時期宝王であるとはいえ、ずっと自分より地位の低かった飛来の臣下に下ることは不本意であったが、それでも地下宮に残ることが出来るのならそれで耐えるしかないと、覚醒することに最後の望みを託していたのだった。

そんな天翔の願いも虚しく、誕生日の朝、天翔の額に珠眼が開くことはなかった。

「クソッ。どうすればいいんだ。ここから出て行くなんて絶対にごめんだ」

天翔は焦る心を抑えることなく地下宮の中を走り抜け、パティオ近くの廊下まで来た。パティオへ入るドアは音衣と飛来を除いては宝人官以外、自由に開けることができない。為す術のない天翔は、パティオのドアから少し離れた物陰に隠れ、音衣が出てくるのをひたすら待っていた。

すると丁度そこへ、ドアを開けて入って行こうとしているローズクオーツの宝人官、華摘(かつみ)の姿を見つけた。

天翔は気づかれないように素早く華摘のそばに近寄ると、彼女がドアに入るタイミングに合わせ自分も一緒にドアの中に滑り込んだ。

そして、気配を感じて振り返った華摘の手から杖を奪うと、思い切り彼女の後頭部を叩きつけた。そして彼女が倒れている隙に、天翔は一気に廊下を駆け抜け突き当たりのドアを勢いよく開けた。

ドアを開けた先は飛来と音衣が暮らす家のリビングだった。

ソファーに座っていた音衣は開いたドアの先にいるのが飛来ではなく天翔だということに気づくと、驚いて立ち上がった。

天翔は部屋の中を物色するように見回すと、飛来がいないことを確認してから音衣の傍へ近づいた。

「ねぇ、音衣。どうして僕と結婚してくれないの?」

ただならぬ雰囲気の天翔に音衣は怯えて後ずさりした。

「ほら、見て。珠眼が開かなかったんだ。後はもう、音衣と結婚するしかここに残る方法はないんだ」

天翔は自分の手で前髪を上げて、額を見せながらジリジリと音衣との距離を縮めていった。そして、逃げようとする音衣を素早く捕らえると両肩を強く掴んだ。

「飛来と結婚するの?どうして僕じゃいけないの?僕は音衣じゃなくちゃダメなんだ。お願いだから、僕と結婚してくれ」

音衣は恐怖に震える声で言った。

「だって・・・私はあなたのことは愛せない・・・」

「愛なんていらない。ただ結婚してくれればそれでいい。天翔とは結婚しなくたってパートナーでいられるんだ。いいじゃないか」

音衣を掴む天翔の両手にさらに力が入ったとき、廊下からバタバタと何人もの足音がして、開いたままのドアから飛来が飛び込んできた。

「音衣!」

飛来は血相を変えている。
パティオの外に出ていた飛来は、廊下のドアを入ってすぐ華摘が倒れていることに気づき、パティオで何か起きていると感じ、慌てて走り込んで来たのだ。

飛来の後ろからタイガーアイの宝人官成偉(なりい)と、オブシディアンの宝人官創永(そうえい)が入ってきた。

「天翔、ここで何をしているんだ。音衣から離れろ!」

飛来がそう言って持っていた杖で強く床を叩くと、天翔の足元からロープが現れた。そのロープは天翔の体を這い上がると瞬く間に天翔の体を締め付けた。

天翔は逃げようとしたが体の自由を奪われ、うまく動くことも出来ないまま倒れ込んだところを成偉と創永に取り押さえられた。

「音衣。大丈夫?」

飛来は音衣の肩を抱いた。

音衣は飛来に寄り添いながら、天翔に冷たい視線を投げかけた。

「あなたが欲しいのは、私の愛じゃない。ただ宝后の夫の地位が欲しいだけ」

すると、天翔は開き直ったように吐き捨てた。

「ああ、そうだよ。何が悪い。地上に追い出されるのはごめんだ。今更地上に出て、どうやって生きていけって言うんだ?一般人に混ざって、やったこともない労働ってやつをあくせくやって貧しく暮らしていけってのか?」

天翔を起きあがらせながら、成偉が言った。

「覚醒しなかった以上、あなたも一般市民ですから仕方のないことです」

「一般市民と一緒にするな。僕は宝王の息子だぞ!」

喚き散らす天翔を成偉と創永が抱えると、

「反省室に」

と言って出ていった。

天翔が連れて行かれた先は、六畳ほどの小さな空間だった。隅に取り付けられた一本のろうそくの明かりが揺らめいているだけの照明。余った木材で作られたベッドが一つとトイレが一つある以外何もない。窓は無く、通気孔と思われる小さな穴が天井付近に開いている。

「軽傷とはいえ宝人官に怪我を負わせ、パティオに侵入し音衣様に恐怖を与えたことは許されざること。このろうそくが燃え尽きるまでの間、お前はここで反省をしなさい」

そう言って、成偉と創永は鉄製の重く頑丈なドアを閉めると外から鍵をかけ、反省室から離れて行った。

残された天翔はろうそくを眺めた。けして長いろうそくではないが、太さは十分にある。このろうそくが燃え尽きるまでいったい何日かかるのか。

音もなく、狭く薄暗い空間の中で見えるもの、聞こえるものは自分の心の声ばかりだった。天翔の心の中は反省をするどころか、禍々しい感情ばかりが増殖していた。

「どうしてこの僕がこんな所に閉じこめられなくちゃならないんだ。そもそもこんなことになったのは全部飛来のせいだ。あいつさえいなければ、僕がこんな目に遭うことは無かったはずだ」

天翔の胸の中で膨らんでゆく憎しみの向かう先に、飛来がいることなど誰も想像してはいなかった。
この記事のURL
http://www.dhcblog.com/sakuraharuka422/archive/86
コメントする
名前:
Email:
URL:
クッキーに保存
小文字 太字 斜体 下線 取り消し線 左寄せ 中央揃え 右寄せ テキストカラー リンク
コメント