息子が私とろくに口を利かなくなってから長い時間が経つ。
小学生くらいまでは普通にしゃべっていたが、中学受験あたりからものを言わなくなってしまった。
学校では友人たちと普通に過ごしているようで、みんなから慕われているようだが、家では会話がない。それも、私だけに。
普段、妻や妹とはべたべたくっついて楽しくいろいろな話をしているが、私だけにはよそよそしく、絶対に自分から話しかけてこない。習い事や塾の送迎はほとんど私が担当しているが、その車内でも絶対にしゃべらない。
幼い頃は、外で自転車の乗り方を教えたり、景色のよいところにある喫茶店へ連れ出して一緒に甘いものを食べたり、釣りに行ったりと普通に接してきたが、単なる反抗期にしては度が過ぎているように感じる。
悪さをした時には代わって謝りに行き、塾の迎えが深夜に及んでも愛想良く送迎し、いろいろがんばってきたが、最近、ちょっと空しくなってきた。
少しでも良い学校に行ったほうが将来の選択肢が増えるから、今までハッパをかけて叱咤してきたが、歯がゆくなるくらい勉強のとりかかりが遅く、その上時々部屋をのぞくとよく寝ている。
自分の子だから、人並みに就職するまではがんばって育てねばと思うが、少なくとも勉強に関しては人一倍必死にがんばった私からすると、こんなことで悩むために今まで生きてきたのかと思うと非常に馬鹿らしい。
家に帰っても楽しくないし、このことに限らずいろんなことが報われないので、いっそのこと姿をくらまして、残りの人生、一人で気ままに生きてもいいかなと思うこともある。若しくは、全てにけりをつけて、生まれ変わって新しい人生を歩むのもあるかなと思うこともある。
少し前から、幼い昔のことを思い出すことが多くなった。昔行った場所、昔の楽しかった思い出、昔まわりにいてくれた人達、死んでしまった祖母。
人は臨終の直前、それまで経験した人生のすべてのシーンが一瞬のうちに脳裏をよぎると言うが、何となくわかる気がする。 |