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ほんにゃいコメントだづ
おともだちだづ (15)
風唄 本編11 [2008年06月18日(水)]

「『天と地は未だ無限で、両者はまた境がなかった―――』この無限の天と神は天地創造、2つの世界を作り出す。神の持つ無限の空と地面を少しだけ分けてもらうんだな」
「んん?分ける?」
「神話なんてお伽話みたいなもんだ。話半分で聞け」
「ふぁ〜い」

 北斗は溜め息をついた。一日中書庫で探し物をしていたため、体がだるかった。しかし溜め息は、それによるものではない。
 真実ではないだろうと今までずっと否定的に読んでいたそのお伽話。
それを信じなければならない事に、何か大きな負荷がかかっているような気がする。
存在そのものが証明である少年は、目の前にいるが…彼は何も知らないのだ。

「そのお伽話を一代目は信じて颯輝に施術した訳だ」
「北斗は信じないの?」「……信じるしかない、と今は思う」

 颯輝は静かに微笑んだ。

「続き、頼む」

 そんな彼を北斗は一瞥し、そして書物に目を落とす。

「神はさらに2つの大地にそれぞれ子供を生む。2つの世界は分け隔てられていたが、"扉"を介し交流し合う。やがて双方に人間が生まれ、増え…戦争が始まる。愚かな生き物だな」

 颯輝は何も言わず、ただ黙って聞いている。

「神の子らは人間の戦争を嘆き、扉を閉めていく。扉は幾つか存在したことになってるんだな。そして、最後の扉だけを残し2人は自ら風に溶けて消える」

 抽象的な言葉に首を傾げた。美しい表現ではあるが、それは自殺行為のように颯輝は感じた。

「何で…」
「2人の神の子は、例えるなら兄弟。さらに人間は神の子の産物。兄弟の子供同士の戦争は、辛かったんだろ」

 颯輝は想像し小さく頷いた。それはきっと、2人にとって見ていたくない程悲しい戦争だったのだ。

「俺には神の子らが何故中途半端に扉ひとつ残し、消えていくのかがわからんな」

 扉を前に悲しみを携え消え行く兄弟。きっとそこにあったものは―――。

「信じたかったんだろ。自分達の子供…人間のこと」

 今度は北斗が黙る番だった。

「んで?答えは?」

 彼はページをめくった。

「ここで今まで黙って見てた神が動く。『人間達の和平は望めぬと判断し、神は最後の扉を固く閉めた』…」
「それじゃ2人の希望、なくなっちゃうじゃん」

北斗は颯輝をちらりと見ただけで続けた。

「結び部分。ここが答えと言っていいだろう」

 北斗は最後の一行を指し示す。颯輝には読めないが、本当に最後の部分だということは分かる。

「序章はこう終わる。『2つの世界が2度と交わらぬよう、時を曲げた』」

 北斗の静かな声が終わり、辺りは静寂に支配される。月明かりが青白く、2人の顔を照らした。

「それって…」
「『時を曲げる』ことが具体的にどういうことなのか、それは俺にもわからない。だが颯輝が300年も超えなければならない理由はここにあると推理できるな。
そして『2つの世界』について。一方がこの世界と仮定すると…妹は、また別の世界に居るんじゃないか…と推測できる」

 重量を感じさせる音をたてながら本を閉じた。相当な厚みだ。答えは、その中から僅かこれだけ。

 北斗は文献を整理している時に、あることに気が付き、そしてあることを決意した。
 新しい、信じられないような状況に身を置くことは、自分を脅かす恐怖となって襲うかもしれない。だがその反面、新たなものが見えてくる手掛かりとなる可能性だってあるだろう?
 柄になく、好奇心が疼いている。

 一方で、颯輝は難しい顔で頭を掻きむしった。
「2つの世界…」

 目が大きく見開かれている。

「いーみわかんねぇ!時間を曲げたって、んなことできるわけないじゃん!」

 そのまま仰向けに倒れ込んだ。背中に当たる石が痛い。月が、先程より高い位置で静かに佇んでいる。
 北斗が隣に座る気配がした。空を見ているようだ。2人が動かないでいると、静寂が耳にうるさい。

「夜が明けたら、出発しよう」

 静寂に良く似合う声だ。颯輝は思った。

「俺も行く」
「………え?」
「お前と子猫だけじゃ、このキビシー世の中を渡っていけなさそうだしな」

 颯輝は思わず身を起こした。その目は大きく見開き、月の光が溢れ出んばかりに輝く。

「マジか!マジでか!?やったーーーー!!」

 喜び勇んだ声に、マックスが飛び起き、完全に夜を切り裂いた。
共鳴するように遠くで魔物の咆哮が聞こえるのは、多分気のせいじゃない。

「ってことで…ほれ」

 北斗が懐に手を突っ込むと、中から食料が出てきた。
颯輝は歓声をあげ、どこにそんなに隠していたのか、次々出てくるまだ温かみの感じる晩飯に飛びついた。マックスもさっきまで眠っていたのが嘘のように機敏な動きで自分の食料を確保している。

「それと旅に必要になりそうなものも持ってきた。ここで夜を明かそう。俺も…もう家には帰らない」


 颯輝は動きを止めた。

「あと4人兄弟がいる。俺1人いなくなったって大丈…」
「ダメだ」

 全て言い終わらない内に、颯輝ははっきりと制した。その声に、北斗ははっとする。
 先程とは打って変わって真剣な表情がそこにあった。

「ちゃんと言わなきゃダメだ」
「………」
「突然家族がいなくなって、平気な訳ない」

 血のつながりが、それ程までに大切と思った事はない。家族は生まれた時から傍にいて、当たり前のように暮らしていた。
 だが、颯輝の場合は―――。

「悪い…」

 颯輝は少し微笑んで首を振り、北斗は立ち上がった。

「今兄貴に言ってくる。お袋や親父じゃ止められそうだ」
「いってらっさーい」
「すぐ戻る」
「急がなくていいよ。朝まで時間はたっぷりだ」

 頷き、北斗は駆けて行った。傍らを見ると、満足そうに目を細め、口元を舐めている小さな相棒がいる。

「駒馳、絶対見つけだそうな」

 細められていた目は颯輝を見つめ、同意するかのように尻尾が跳ねる。
そのまま颯輝の腰に寄りかかるよう首を擦り寄せ、同じ方向を見て腰を下ろした。
 妙なところで甘ったれな相棒もまた、颯輝には掛け替えのない家族であった。

「なぁ、駒馳に会ったら何したい?」

 マックスも、あの時駒馳不在に戸惑っていた。
それ程までに2人と1匹は仲が良く、遠くから駒馳と戯れる姿を見ると、まるでもう1人弟ができたようだった。
 彼は小さく唸って考えいる。颯輝は急かさず、また星を見ながら答えを待った。
いつしか唸り声が、猫科特有の喉を鳴らすようなあの音に変化し…。
 颯輝は笑った。

「抱っこされたいの?じゃオレはマックスを抱いた駒馳をおんぶだな!」

 小さかったあの子は今、どうしてるだろうか。知らない世界で、好き嫌いせず食事を摂り、ちゃんと大きくなっているだろうか。
 本当に連れて帰ることができるのだろうか。飛び越えた時間は正しいのだろうか。ちゃんと会えるのだろうか。
 不安はそれこそ溢れて尽きることはないが、今はただ懐かしい気持ちに身を浸したい。
 たった1人の血を分けた兄妹。あの時誓った想いは、まだ生きている。

「北斗、帰ってこないけど先寝ちゃうか」

 寝袋に潜り込んで目を閉じると、潮騒と、懐かしい妹の鼻歌が聞こえたような気がした。
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