2020年01月  >
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
第4章 ガン食事療法の始め [2009年10月09日(金)]
P.62第5章 理論より

 私の理論は、ガンの一般的科学理論を意図したものではない。また自分の理論を他の理論や解釈と比較してみようとするつもりも、私には無い。医者が適切なガン治療を実施するうえでのガイドとして役立つことのみを目的としたものである。


P.58
●肺結核の食事療法からスタート
 私が考案したガンの食事療法の軌跡を、簡単にまとめると次のようになる。この療法は色々な食事上の要素を組み合わせたものである。私は1927年から2年間で肺結核の食事療法を確立した。その後28年から29年にかけて最初の3人のガン患者を治療して、私はいい結果を得た。
 結核の食事療法とは塩抜きの食事のことで、新鮮な野菜、果物を主に生のままで、あるいは小さく砕いて食べさせ、さらにオレンジ、グレープフルーツ、特にリンゴ、ニンジンを重視した搾りたてのジュースを、何回も飲ませると言うものだった。浣腸も何度もするようにし、ミネラロゲンと言う複合ミネラル剤も投与した。後にはバターミルク(牛乳からバターを取った残りの脱脂乳)、ポットチーズ、ヨーグルト、生卵の黄身2個を、オレンジジュースに混ぜ、毎日与えるようにした。
 私の最初のガン患者は、肝臓に小さな転移が2つあった胆肝ガンの患者で、横断を示し、高熱もあった。次の2人は胃ガンで、周辺の腺にも癒着や転移が起きていた。2人とも手術が試みられたが無駄で、生検(バイオプシー)も行われ。私は彼らに食事療法を行った。そうするうちに、このうちの1人の患者が2年後に、山で足を滑らせる事故に遭遇してしまった。彼女はクウェットリンブルグの山の中の小さな村の病院に運ばれ、事故で潰れた脾臓のための手術が行われた。脾臓に出血の跡はなかった。彼女のガンを、最初に手術したランゲブレーメン教授が現場に駆けつけ、左の腎臓が破裂しているのを発見したが、既に時遅く、命は救えなかった。検死解剖がされた。その結果、故人の体に、ガンは発見されなかった。
 1933年と34年に、私はウィーンで、6人のガン患者を治療した。この時には、非常に効果の高いレバーのエキスの注射も追加したが、結果は6人全て失敗に終わってしまった。その原因は次のようなことが考えられる。患者のいたサナトリウム(療養所)の台所は、私の療法のような厳格な食事療法をやるのには不十分だったのである。他の病気の患者たちもいたが、彼らは皆、食事のことなど何も考慮されていない治療をされていた。そんなわけで他の医者、看護婦、調理場、その他の職員たちの私への療法への反対を押し切るのがとても難しかったのだ。
 35〜36年にパリで治療した7人の場合は、3人の患者に、よい結果を得た。7人には私の最初の3人の患者と同じ療法をしたが、それに加えてレバーのエキスの注射と、青葉野菜のジュースを1日にグラス3,4杯追加して与えた。
 ニューヨークでは43年まで、巡回医としてガン患者を含め、あらゆる患者を扱わねばならなかった。
 こうして38年以降、何度かのつまずきを経て私は、他の医療手段を追加することで、より効果的な療法を作り上げることが出来た。
 多くのガン患者は基礎代謝が非常に低いことを、私は最初に発見し、このことをヨードの欠乏を示す臨床症状だと解釈した。そこで私はヨード処方を与え、最初は甲状腺剤と言う有機の形でそれを行った。そして後には、半分の濃度のルゴール液で、無機のヨードも与えることにした。最初は3滴ずつ1日に3回ずつ与え、後には最初の2〜3週間は3滴ずつ1日に6回与えるというように増やして行き、後には代謝がプラス6から8の間に止まるようになるまでは、量を減らしながら続ける方法をとった。
 そしてこれが治癒能力を回復させるのに、1番いい代謝レベルだと気付いた。細胞にノーマルな分化をさせる上で、ヨードは決定的な要素の1つである。だから、ガン細胞の中で見られるような細胞分化の現象に対処する目的で、役に立つ。また、ヨードは、ある種の副腎皮質ホルモンにも、対抗するとされている。
 そして毛細血管を広げるナイアシンを追加することで、結果はさらによくなった。ナイアシンは今のような働きで、血清と細胞の間にエネルギー交換にも役立つ。さらにナイアシンは、酸化システムの機能にも不可欠なものである。こうしていくつかの医療的処方を加えることが、腫瘍の成長を止め、周囲の組織の電気的ポテンシャル(潜在能力、位置エネルギー、保存能力)と抵抗力を強めるのに大いに役立った。また最後に、特別な処方のカリウムが内臓の神経組織を刺激し(クロウス、ゾンデック)、消化器官の機能を回復させることが判った。カリウムは同時に、ある種の副腎皮質ホルモンにも対抗するものでもある。
 私が扱うガン患者が増えるに連れ、患者も家族も、病院から家に帰されてしまった末期患者にも、何か出来るのだと気付くようになった。そして次第に私の全患者の90%がいわゆる末期ガン患者ばかりになって行った。彼らは他の治療を受けて、効果が芳しくなくなってやって来るのだった。
 このようにたくさんの最末期患者に押しかけられるようになって、私もガンの療法を色々な角度から研究し、可能な限り治療効果を向上させるよう、迫られることになった。その結果、こう云う患者のほぼ50%は快方に向かわせたり救うことが出来るようになった。またこの治癒率は患者のかかりつけの医師、患者本人がよく協力し、家族がこういう厳格な食事処方に抵抗しないのならば、もっと向上させられた。なぜならこの食事療法はかなり長期にわたって続けねばならないものだからだ。
 当初の改善率は高い。しかし1,2ヶ月のうちに、多くの患者がしばしばいくつかの臨床症状を示すようになる。そしてそれは、肝臓あるいは他の主要器官が治癒のプロセスを維持し続けて行くまで、充分に力を立ち直らせないほどに、傷(いた)められたと言うことを示す症状なのであった。
 私の治療を実行するのには、それだけで1日のうち大部分の時間を使わなければならない。また通常の3回の食事よりもお金がかかる。しかし家族に充分な愛情と献身の気持ちがあれば、患者のために全ての困難は乗り越えられる。
第5章 理論 [2009年10月10日(土)]
P.62第5章 理論より

 私の理論は、ガンの一般的科学理論を意図したものではない。また自分の理論を他の理論や解釈と比較してみようとするつもりも、私には無い。医者が適切なガン治療を実施するうえでのガイドとして役立つことのみを目的としたものである。


P.62
 私の理論は、ガンの一般的科学理論を意図したものではない。また自分の理論を他の理論や解釈と比較してみようとするつもりも、私には無い。医者が適切なガン治療を実施すうえでのガイドとして役立つことのみを目的としたものである。私は自分の臨床経験の中で、この病気の一番の特徴と観られるもの、治療上で最も決定的な要素になるものが何かを観察して来た。そして、そのような観察から生まれて来た物が、私の理論に他ならない。一口で云えば、私の理論は次のようなものである。
「もっとも基本的な問題は、目に観える症状としての腫瘍の増殖と言う現象ではない。最大の問題は、病気に対する抵抗力、免疫力、治癒力が喪失されていると言うことも含め、体全体の代謝がダメージを受けていると言うことである。そしてこれは、あれこれが原因であると言うような、目に観える原因だけでは説明できないし、認識も出来ないものなのである」
 つまり私の考えでは、ガンはホルモン、ビタミン、酵素の不足の問題でも、またアレルギーやウイルスあるいはその他、既知および未知のどんな細菌の感染症でもない。また体内での特別な中間代謝物質などや、いわゆる発ガン物質などと呼ばれる体外から体内に入るある物質が生み出す何かに、体が冒されて起こる病気でもない。これらの全ては、いわゆる第2次感染と呼ばれるものとして、人間のガンの発病につながる寄与因子にはなっていよう。
 しかしガンは、単純な細胞の問題でもなくて、体全体の代謝の質を低下させて行くような多くの有害な要素が蓄積され、肝臓の働きが次第に阻害された結果、出てくる病気である。だからガンは2つの側面、相対的側面と部分的側面に分けて理解する必要がある。この相対的側面の方は、肝臓が害されると同時に消化系全体がダメージを受けることによって、極めて遅々と進む、目に見えない現象である。そしてそれが後になって、重大な全身症状が眼に見える形で出現してくる。
 ガン以前のステージの進み方は、臨床的には証明されることが無い。肝臓の障害が多くの退化病の前期症状だと言うことを証明するのが難しいのと同様に、それを明らかにするのは困難で、不可能でさえあろう。ガンでは肝臓の1つ、あるいはそれ以上の機能がひどく障害を受け、同時に、他の期間にも問題が生じると見ていい。
 我々(ことに医師)は山際、市川が行った最初の実験からも、肝臓に注目する必要がある。2人は実験動物にガンが出てくるのは肝臓、腎臓、リンパ腺に病理学的な変化が現れた後だと言うことを明らかにした。肝臓が有害物質で毒されても、その臨床症状は長期間現れないし、それは何年も現れないほどである。
「肝臓は体の中の最大の臓器であり、その生理学的機能の複雑さと重要性は、他のどんな器官とも比較にならない。だから健康な時も病気の時も、肝臓の状態とその機能のレベルが体全体の効率を大きく左右するものになっている(註26)」
註26:W.A.D.アンダーソン『病理学』(1948年861ページ)
 肝臓は重さも7〜10(約5キロ弱)ポンドあり、通常の生理学上の必要をはるかに超えた余力を持っている。逆に言えば、その余力が使い果たされるまでは、機能の低下がなかなか発見できないのである。肝臓はダイナミックで活動的な器官で、多様な機能を営んでいる。そしてその機能の多くは、他の器官の働きと密接に関連し、結びついている。肝臓の機能のレベルを1つないし、いくつかの働きだけから知ろうと言うのは不可能である。
 ガンの最初の発言が長い間見つからないのはこのためで、この期間は前ガン状態、症状発現前期≠ニ呼べよう。この期間に体が感じやすく弱くなり、エネルギーや体重も減少したとしても、医者には特別な診断は出来ない。そんなガン検査方法はないからで、またこの頃には、特別な初期症状が現れるわけでもないからである。医者も患者も、体のどこかに部分的な症状が現れるほど腫瘍が大きくなり、それが臨床的に目に衝(つ)くようになるまで待つよりは無いのだ。我々(ことに医師)がX線検査や気管支鏡、膀胱鏡、パパニコロー染色などの、現代的な検査方法使えるようになるのは、そうなってからの話である。
 これらの症状は、肺、胃、腸、腎臓、膀胱、子宮、あるいはその他の器官、それに転移が起こった器官からの分泌物や、出血を伴う大小の破損によって起こるものである。同時に脳、脊髄、骨その他からの特有な症状が色々と起きたりする。そして最後には、検査のための手術だけでも診断が下せるほどになる。
 科学的治療法として現在(1958年。これは2009年10月10日現在でも、変わっていない)認められているのは、症状の起きた場所だけを、症状を問題にして部分的に治療すると言う方法である。我々医師が習っている治療法がそれで、医者は大学の病院で、もっぱらそう言う訓練を受けている。また医学研究でも、全てがこう云う部分的症状を対象にしたものである。過去50年の間に、現代医学は他の多くの分野では大きな進歩を見せたのに、ことガンの治療で決定的な進歩がなかったのは、こう云う医学教育のせいだと私は考えている。
 私の考えでは、部分的な症状も異常な細胞、未成熟な細胞、傷つけられた細胞、変性途中の細胞が原因で起きるものであり、こう云う細胞が一種胎児的な生態に戻ったり戻らざるを得ないように仕向けられた時、症状は起きる。そして細胞がそうなるのは、これらの細胞が充分に活性化(イオン化)されたカリウム・グループのミネラルに充分にサポートされていなかったり、ホルモンや、内臓の神経の正常な働きの統制と一体となった、活性化した酸化酵素やビタミンが不十分だったりする結末である。そして最後には、皮下および網状のリンパ細胞や網内系の働きが低下し、免疫力も弱まる。
 前述したように、体全体の症状が問題で、これを治療しなければならない。そしてこう云う症状は、肝臓を主とした消化系統の主要器官の機能低下が、主な症状になっている。
 また、これは現代文明がもたらした有害な作用が毎日、積もり積もって起きるものである。現代文明の害は、土壌が化学肥料や土壌養分の収奪によって不自然なものにされたことから、スタートしている。それをさらにDDTその他の殺虫剤がどくかさせる。そして結果として、こういう有害な土壌で育った野菜や果物は、重要なカリウム・グループのミネラルに欠けたものになり、人間の摂る栄養もゆがんだものになっている。さらに食品素材は精製、漂白されたり、缶詰や瓶詰、燻製、冷凍、人工着色料による着色、それに製粉や塩の添加等により、一層栄養的価値を失ったものにされる。たとえばニンジンは保存が利くように処理された後で、セロハン袋に詰めて売られ、他の食品も有害な保存料を浴びせられている。また牛や鶏も早く大きくなって市場に出せるようにするため、スチール・ベスト・ロールを食べさせられたり、注射されながら育つ。
 ガンの問題により実際的な見地−臨床的観点から、そして全体性の立場から取り組もうと思うのなら、我々(ことに医師)は以下の2つのことを知らねばならない。
 第1には、我々(ことに医師)は将来も当分の間は今のままの文明の発展コースに合わせて、生きねばならないこと(註27)。第2には、ガンの真因、背後の原因になっている問題を解決する(註28)上では、現在の科学は我々(ことに医師)の助けにはならないことである。
註27:C.W.ビードル『サイエンス』誌(1957年1月4日号)
註28:A.セント・ギオルギ『生エネルギー』『サイエンス』誌(1956年11月2日号)

「心臓の最も基本的な本質は、それが筋肉だと言うことだ。しかし筋肉の主要な本質を、我々(ことに医師)は理解しているわけではない。我々(ことに医師)が物を知れば知るほど、我々(ことに医師)は少ししか理解しなくなる。まるで人間は、なんでもすぐ知る。
しかし、何も理解しない、と言うふうである」
 右の状況は他の生物学的プロセスや、たとえば退化病(ガン)の場合のような病理学的条件についても同じである。この言葉には、最も基本的な何かの知識が欠落していることが、示唆されている。
 筋繊維素の話は、このことをよく示している。これの重要性に気付いたレーヴェンストッフェは、コラスと同じように筋繊維素のことを生命の推進物質≠ニ言ったが、我々(ことに医師)は筋繊維素のことを、まるで知らないも同様なのだ(註29)
註29:
W.コラス博士『人間の栄養の働き』の前書き参照

 アルバート・シュバイツァは生命への畏敬≠フ大切さ、つまり生あるものの全てに深い敬意を払うことの必要性を説いている(『生命への畏敬』)。生命あるものは、大なるものも小なるものも、動物も植物も全ての点で完全につくられ、成長するものであり、その機能の全ても、あらゆる部分もそうであり、全体においては一層そうである。
 科学も探求も研究上の仕事も、全ての人が大切に思わねばならず、また全ての人にとって、これらは必要なものである。しかしそこから出る結果を過大評価するのは禁物である。ことに治療行為は、常に肉体を1つの実体として理解する方向のものでなければならず、肉体が沈黙の完全さの中で支えられ回復されるようなものでなければならない。
 生命全体を小さな生物学的小片や、小さな機能の中で理解しようとする必要はない。そうではなく、治療の場合は病める患者の人間全体を全体性の観点から問題にし、そのように対処する必要がある。退化病の場合は特にそうである。相応する生物学的反応が理解しやすかったり、動物実験では証明できたりする範囲でだけ対処しようと言う治療法は、大きな間違いである。ことに退化病やガンの場合には、対処療法や医者が充分に理解できる療法だけしか実施しないと言うやり方をすべきではない。自分に結果が解るとか、想像できると言う限り、肉体全体のためになる治療なら、すべきである。ギリシャ、ローマの医者は、このことをよく知っていって「病気など存在しない。存在するのは病んだ病人だけだ」としていた。
 現代(1958年)の科学技術はほとんど無限にみえる新しい可能性を開いてきたが、その成果を、人間の生物学の中には活(い)かせずにいる。
 『科学技術の失敗』と言う著書でジェンガー牧師は、現代文明を失敗の文明と呼んでいる。これはウィナー博士の明るい見方(註30)とは、正反対のものになっている。しかしウィナー博士も自著の最後では、「我々(ことに医師)も好むと好まざるとに関わらず、専門の歴史家の非科学的¥柾q的な方法を頼りにせざるを得ないことがまだ多い」とは書いている。
註30:N.ウィナー博士『サイバネティクス』(1953年)

 ガンの学説をあれこれ論ずるのが、本書の目的ではない。しかし私は、J.グリーンスタイン(註31)の見方は、ぜひ紹介しておきたい。
 彼は「ガンは生き方そのものと結びついた現象である」。つまり、「ガンは生命ある宇宙と切り離された、別の生態系ではない」と言う総括的な見方に達しかけていた。しかしそう言う見方をしながらも、これと相反する結論を彼は述べてしまっている。研究は「その重点を、ガンの起きた部分の直接的研究におくべきだ」としたのだ。1947年の自著で、将来に対する極めて悲観的な見方を「人間が人間であることを止めない限り、ガンを予防できないかもしれない(註32)と言う言葉で、彼が述べた。このような見方が多かれ少なかれ一般に受け入れられていることが、医者たちにガンの症状の壁の裏側にある事実を、見えにくくさせている−そしてそれは、永遠の闇の中に隠されてしまっている。
註31:J.グリーンスタイン『ガンの生化学』(1954年版589ページ)
註32:同書『1947年版373ページ』

 何人かのガンの専門家が、新しい調査方法を始めてるが、彼らも最後には古臭い科学的研究にしがみつく。たとえばA.ハドウは、ロンドンの王位ガン病院での調査結果を述べながら、見込みのありそうな解決方法を発見できなかった結果としてこう云っている。
「他のどの分野とも同様に、ガンの研究も長期にわたる方法―私の場合は患者の発ガンのメカニズムに焦点を置いていた−に頼らねばならない。しかし、それだけでなく、偶然の出来事や偶発的観察、それに予想できなかったような単純化された理論の影響を受けてしまう。何がより決定的な要素化と言うことを明らかにするのは、不可能である。だが、それでもそれぞれが他の要素に影響し、補完するものになっている。そして両方が我々(主に医師)のガン細胞に関する知識の向上に不可欠なのだ(註33)」
註33:『A.ハドウの調査報告『ガンの生化学』生化学年報(第24巻689ページ』
肝臓の代謝機能回復を最優先に! [2009年10月11日(日)]
P.62第5章 理論より

 私の理論は、ガンの一般的科学理論を意図したものではない。また自分の理論を他の理論や解釈と比較してみようとするつもりも、私には無い。医者が適切なガン治療を実施するうえでのガイドとして役立つことのみを目的としたものである。


P.68

 ところで、本書では、あちこちで、ガンは退化病の1つだと言う見方を述べてきた。しかし、それを証明することは難しい。ましてある人はガンと言う退化病になるのに、他の人は他の種類の1つ、あるいはいくつかの退化病に同時になるその理由を知ろうとすれば、なお難しい。
 ガン患者には多くの場合いくつかの退化病が同時に起きている。私の経験ではガン患者は多くの場合、慢性関節炎、高血圧症、慢性の副鼻洞の病気、その他の慢性感染症を同時に持っている。そして高齢者を除いて、動脈硬化症は少ないが、心臓のトラブル、糖尿病が多い。また結核、喘息、皮膚病、通風などはまれである。
 私はガンの始まりのそもそもは多分、肝臓の精密な働きの1つ、酸化酵素の再活性化が阻害されることなのだろうと考えている(註34)。
註34:R.ショウエンハイマー『肉体のダイナミズム』(1942年)

 生まれつき肝臓や消化器系の弱い人が、若いうちにガンになる理由もそう言うことによるのだろう。彼らはより急性的で、より悪性のガンになり、ひどいアレルギー反応や浮腫も伴う。そしてガンになった後でも、リンパ球の防壁や瘢痕化(はんこんか=変色した硬いしこりのような跡)かによって、腫瘍の周囲の組織を守ったりする力も弱い。これは石灰化が起きる、起きないに関わらず、そうである。
 ガンを最初に実験的に起した山際と市川は、ウサギの耳にタールを9ヶ月間塗り続けた。この実験は、ガンが現れる前に肝臓が傷つき、そこに病理学的な変化が起き、次いで腎臓、脾臓、リンパ系にもそれが起きることを確かめたと言う点で、重要な意味がある。ダメージを受けた細胞がガンに変異する≠ワでには、肝臓を毒化するための、長い時間が必要なのだった。
 他の実験は、ガンが接触性の感染症ではないことを明らかにした。後には、特別な条件化でならば、ガンを動物に移植できることが解った。ネズミの甲状腺肉腫を、数世代のネズミに移植するのに最初に成功したのは、ロイブだった(註35)。
註35:『J.M.リサーチ』(1901年第28巻15号)

 しかし種痘のようなやり方で、人間をガンに罹(かか)らないようにすることが出来ないかと言う疑問には、否定的な答えしか出来ない。ガンが肉体の一部として自力で生長している体の中では、どんな形の種痘のような方法でも、考え付かない。こう云う方法が成功できるようなタイプのガン(ウイルスによるガン)は、人間には無い(註36)。
註36:K.M.パウエル『ガンの問題』(1949年438〜44ページ)

 ガンを移植しようとした最初の医者は、ナポレオン時代のパリの有名な医者、J.L.アリベール博士である。1808年の10月17日、博士はパリのセント・ルイス病院で驚くような手術をした。彼は乳ガン患者の乳房から腫瘍をとり、それを小さく砕き乳液状にして、自分と3人の弟子に注射したのだ。激しい熱と炎症が起き、数日続いたが、その他の反応は起きなかった。数日後、博士は自分の、同僚の1人に、同じことを繰り返したが、やはり他の反応がなかった。
 父親を胃がんで亡くしたナポレオンが、ガンに非常な興味を持ち、自分も同じ病気で死ぬだろうと言っていた話は有名で、彼はそのとおりに死んだ。またナポレオンはコルビザール博士とよくガンのことを論じた。
 最近シカゴのE.ウェイス博士は、人間のガン組織から抽出した液体を、少数のガン患者に1週間に1度ずつ、6週間続けて注射した。その結果は、短期間だけ食欲が増進して、若干、体重が増加したに過ぎなかった。
 これら初期の実験やその後の多くの実験からは、ガンを移植するのが同じタイプの動物にも如何に難しく、まして他の動物に移植するのは、大変むずかしいことかを、我々(医師)は知る。
 にもかかわらず、健康な肉体は、肉体自身がガンを取り入れる(合体する)≠フを妨げる能力を持っているか否かと言う問題が長い間、等閑視されてきたが、次のようなことに照らし合わせてみるとよく判る。たとえば一般的には健康な肉体は外からの侵入者、つまりバクテリア、ウイルス、球菌などが、体に入るのを防衛反応で防いだり、たとえ体に入ってしまったとしても治癒の手段としての炎症反応が、体に入るのを防衛反応で防いだり、たとえ体に入ってしまったとしても、治癒の手段としての炎症で殺したりすると言うことを我々(医師)は、よく知っているはずである。
 これと同様に健康な肉体には、ガンの組織やその抽出物が体に注入された場合は、防衛や治癒の反応が起こるのである。
 しかしガン患者では、反応が違ってくる。色々な種類の実験はこの点に関して、肉体が最小限、あるいは一時的な治癒効果しか示さないことを表している。これは、ガンに罹った体が、防衛や治癒の能力を失っているからである。
 注目すべき数人の学者、たとえばA.ピーヤ、ピルケ、ベルクマンなどは、ガンは炎症の問題に含められると考えた。なぜなら、ガン患者の体は、ノーマルな治癒反応としての炎症を起こさなくなっているからだ。最初、R.ウイルヒョウは、慢性の炎症は退化のプロセスであると考えた。しかし今日ではその炎症は、間葉組織の反応で、肉体にとって有利にも不利にも働くものと考えられている。
 ベルリン医科大学病院長で、ベルリン医学協会会長のベルクマンは、ガン組織やガンを持った肉体内の機能上の化学的変化を自分の病院で調べた最初の人である。しかし彼はその発見を治療上の実験には活かさなかった。彼は自著で自分の病院で詳しく調べた結果では、炎症の代謝にも多くのタイプがあり、色々な違いがあったと書いている(註37)。
註37:G.V.ベルクマン『機能病理学(173〜4ページ)

 また、炎症に滲出液(しんしゅつえき=炎症部位から滲み出る液)の中にある細胞は、正常な血液中の白血球よりもさらに好気性の糖分解作用を強く持っている。これに対し白血病の場合の白血球は、嫌気性の代謝が出来るだけである(註38)、とも書いている。
註38:ペシエル『白血病の経過(1930年23号)
    R.ローマン『腫瘍の経過』(39号)

 このような見方は、ガンに対する新しいアプローチとして重要である。つまりガンは代謝全体及び、代謝の根本的機能の乱れだと理解する見方として重要なのである。そう言う観点から、ベルクマンの文章を私はここで引用しておきたい。
「私のような考えを、現時点で治療の上でシステマティック(組織的)に活用することは出来ないとしても、ガンは肉体の代謝が治癒のための炎症を起こさせなくなった時に始まるのである。またこの2種類の代謝機能が違う反応を見せる状況を相反するアンチテーゼとして示すことはやさしい。ケンプナー博士の指導でR.ローマンが行った実験では、ネズミの腫瘍や人間のガン組織から採った組織片は、炎症の滲出液の中で、すぐに死んでしまった。そう言う状況の中では、ガンに特有の代謝が続けられないからであった。
 糖代謝、重炭酸塩、酸性度の一定の状況の中では、どんなガン細胞も生き延びることができない(表1参照)。

表1 血液中および好気性条件化の炎症滲出液中における時間ごとのガン組織の代謝
(QO2=血液1ミリグラム当たりの酸素取り入れ量
QHO2=水1ミリグラム当たりの酸素取り入れ量)

時間 血液中 炎症滲出液中
1    QO2  QHO2   QO2  QHO2
 0  10.8  23.4  11.2  21.8
 6  10.2  21.8   6.9  13.3
10   9.7  18.9   2.8   2.9
14   9.6  17.5   0     0


 0  11.3  17.6  12.0  21.1
12   8.8  16.6   0     0

 表1は血液中では完全に完全に生き延びられるガン細胞が、炎症の滲出液の中では、数時間で死滅することを示している。これは炎症と言う現象が飽きれば、ガンに特有の代謝がストップさせられ、ガン細胞は激しい酸化現象を伴う炎症反応の中で死滅せざるを得ないと言うことを示している、こういう炎症は人間にとってありがたい炎症である」
 フェールアイゼンやコーレーは、ガン患者に、治癒反応としての高熱を起こさせるだけの細菌摂取を強制的にすることが出来なかった。アリベールやウェイス、クレビオゼンその他の医者たちは、長年の臨床経験の中で、ガン的組織やガン細胞からの抽出物、細菌などを、患者の体に注入してかなりの防衛反応を起こさせることに、ある程度は成功した。
 以上のようなことから、ガンと言う病気は、全体の代謝がいろいろな形で退化して起こる病気だろうと言う見当がつく。そしてこれは他の多くの退化病の場合と、似たものなのだ。
 そこでガンの治療は、以下の3つの基本的な点に焦点を当てるべきだと言うことになる。
1、体の解毒作用を徹底的に促し、それを続けさせること。
2、出来る限り肝臓機能の復活を図るこることを含めて、腸の代謝全体を、回復させること。
3、炎症反応と治癒能力を高めるための腸管外の代謝全体を、回復させること。
 治療が成功するか否かは、肝臓の代謝機能を回復させられるか否かにかかっている。

註:これを『傍腫瘍性(ぼうしゅようせい)神経症候群(PNS:パラネオプラスティック・ニューロロ
 ジカル・シンドローム=腫瘍性随伴神経病学的症候群)と云うそうです。
  が、患者さんにとてつもない負担を強いることになり、見守る御家族にもカナリの精神的
 負担を要すものです。
  また、現行医療においては発熱38度以上で熱さまし≠ニ云う解熱剤≠ェ使われる
 ため、保健適用機関でこの療法を試みるには主治医との連携なくしてあり得ません。しか
 し、患者さんの詳しい状態は下記に譲りますが、それにより治療失敗=死亡の危険性も高
 く、医療訴訟を恐れ可能性は限りなくゼロに近いのが実情のようです。

  詳しくは…ぱくッ!

       安保先生の書籍「免疫革命」の傍腫瘍症候群の部分を抜粋しました。

 治療の効果を高めるという意味でも、ガンへの恐怖‐をぜひ脱却してほしいと思っています。
 恐怖心を抱くと人間の身体はどうなるのでしょうか?身体はこわばり、血行が抑えられます。つまり、恐怖を抱くということは、交感神経を緊張させることであり、それは免疫カを低めてしまうことにつながるのです。自分の恐怖心が病気をよび、病気を重くしているのです。
 前にも述べましたが、ガンは自分の生き方のゆがみ、まちがいから生まれたものですから、基本的にはそれを直せば、治ります。進行ガンでも、六七割は治癒に向かうのです。
 その事実をしつかりと認識してください。ガンになったらどうしよう、と不安になったり、あるいはガンが治つてからも再発を怖れてびくびくしていると、それがガンをよぶのです。 まさに発ガンをよぶ体調をつくるのが恐怖心なのです。ガンの治療の第一歩、そしてガンの予防の第1歩は、ガンへの恐怖心から脱却することなのです。
 現代医療がガンの痛みをもたらしている多くの人がガンを怖い病気だと思っている理由の一つに、ガン患者の杜絶な苦しみ、痛みのイメージがあります。何時間にも及ぶ大手術を受け、疲弊し、すっかり体力を落としてしまう患者の姿。抗ガン剤治療や放射線治療の副作用でやつれ、髪が抜け落ち、ごはんも食べられない状態を見て「ああガンは恐ろしい」と大きな恐怖感を抱くのも当然です。
 しかし、よく考えてみると、これらのガンの苦しみは、ガンそのものがもたらしているものではないのです。身体が病を脱却しようと起こしている治癒の反応を押さえつけるような薬物を投与したり処置をしたりしているせいなのです。薬の押さえ込みに反発し、みずからの力で病を脱却しようとする生命力が起こす、そのせめぎあいが、あのような苦しみ、痛みを生んでいるのです。というのも血流を増やす反応は、強く起こったときは痛みを伴うからです。
 となれば、生体の反応、免疫システムを抑えつけるような治療をしなければ、あれほどの痛みや苦しみはそうそう起こってはきません。
 もちろん、治療の過程で、発熱や痛みが短期間でることはあります。しかし、いつまでも見込みなくずるずると苦痛と消耗が続くことはありえないのです。結局、あのガンの壮絶な苦しみのほとんどは、現代医療が生みだしているものなのです。
 ガンの痛みや発熱は、身体が失われた血流をとりもどそうとしている、いわば治癒反応です。だから、強い薬をつかって免疫を抑えれば抑えるほど、薬が切れたときにでる反応、リバウンドが激しくつらいものになります。さらに、いまのガン治療では、抗ガン剤治療で免疫を徹底的にたたいた後に、もうどうにも痛みが抑えられないところまでくると、今度はモルヒネなどの麻薬で痛みを緩和するというケアにはいります。
 しかし、モルヒネを含めた麻薬というのは、すきまじく強く免疫抑制を行い、交感神経を緊張させるものです。すると、いかに麻薬といえども、薬は切れるときがきますから、するとこんどは抑えこまれていた痛みがものすごい勢いではねかえるようにでてきます。そして、ますます免疫力が低下していくことになります。
 また、薬で交感神経を徹底的に緊張させているわけですから、体力の消耗も激しくなります。
 熱や痛みのあとでガンの自然退縮か起こる四ヵ条を実践すると、ガンの増殖が止まります。そして、リンパ球がある程度増えると、ガン組織の自然退縮がはじまります。
 この治癒の現象が、日常茶飯事のごとく起こるのを私たちの仲間の臨床医たちは目のあたりにしてきました。同時に、副交感神経を優位にする治療の過程で、三分の二ぐらいの患者さんが、熱がでてだるい、あるいは節々がすごく痛むというような、ちょうど自己免疫疾患と同じような症状を体験します。そうした症状を体験した、そのあとにガンの自然退縮が起こってきます。
 では、こうした不快な症状は、どうして起こるのでしょうか。ガン細胞を攻撃するのは、おもにNK細胞、胸腺外分化T細胞、傷害性T細胞と自己抗体産生のB細胞の四種類です。これらの白血球の細胞がガンをたたくときには、必ず炎症反応が起こって、発熱、痛み、不快を伴います。あるいは下痢をすることもあります。肺ガンなら咳がでてきたりします。大腸ガンだと血便がでたりしますし、膀胱ガンだと血尿がでたりします。それが、治癒に向かっている反応なのです。
 もう少しくわしくメカニズムを説明します。副交感神経というのはリラックスの神経ですが、急激に活性化されると、プロスタグランジン、アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエンなどの物質をだします。これらはどれも、発熱や痛みをだす物質なので、不快な症状が現れます。ところが、ふつうの患者さんも、免疫のことをきちんとわかっていない医師たちも、こういう症状が治癒の過程で自然に起こるということがわかっていなものですから、つい、症状を止めたくなるのです。
 そのため、鎮痛剤、消炎剤、解熱剤、とくに、ステロイド剤を患者に服用させてしまいます。もちろん、痛みとか発熱が止まりますから、そのときは元気がでてきます。しかし、これは、治癒反応を止めているわけで、ガンを根本から治していくという意味では、まったく逆効果なことをやっているのです。
 じっさいには、ガンの自然退縮につながる治癒反応がはじまると1週間ぐらいは寝込むようなつらい症状が続きます。その後、リンパ球が増えてがんが退縮しはじめます。だから、ガンの患者さんで、免疫活性療法で治していくというつもりの人は、この反応をぜひ覚えておいてほしいと思います。この反応がわからないと、症状の変化に不安になるし、事情を理解していない医師に相談してしまえば、薬をだされて、治癒症状を止められてしまいますから、注意が必要です。
 じつは、この治癒反応は昔から、傍腫瘍症候群(パラネオプラスティック・シンドローム)という名前で、ガン患者の治癒過程で必ず起こる反応として知られていました。ところが、忘れ去られてしまったのです。戦後、抗ガン剤を使うようになって以来、この反応がでなくなってしまつたからです。免疫が活性化して攻撃する反応ですから、抗ガン剤を使って免疫を抑制する治療が行われると、当然この反応が起こらなくなります。
 傍腫瘍症候群の中で、昔からいちばんよく知られているのは、黒色肉腫、メラノーマが自然退縮するときの反応です。発熱して、節々が痛くなり、その後で、アルビノ(白子)状態の斑点がでてきて、黒色肉腫が自然退縮します。これは自己応答性T細胞(胸腺外分化T細胞)や自己抗体が、ガンの黒色肉腫細胞と正常のホクロ細胞をまとめて攻撃したからなのです。
 黒色肉腫は、皮膚の上、目に見えるところにあるから、この反応がいちばんわかりやすくて知られていたわけですが、もちろん、これは黒色肉腫だけではなく、ほかのガンでも起こることです。
 先ほど述べた、発熱、痛みのほかに、しびれなどの神経症状もでてきます。これは、ガンが上皮で起こるものであるためです。上皮には神経が張りめぐらされています。ですから、ガンが攻撃されると、即座に神経も刺激を受けます。すると末梢神経刺激が興奮してきて、しびれや痛みがでるのです。
 傍腫瘍神経症候群(パラネオプラスティック・ニューロロジカル・シンドローム)とよばれます。この反応も、覚えておくとよいでしょう。 だから、もし免疫活性の治療にとりくんでいる過程で、こうした不快な症状が現れたら、すぐにそれを止めようとしないで、治癒反応である可能性を考えてください。もし治癒反応だと判断できたら、その症状を少し耐えて乗り越えましょう。すると、その先には、ガンの自然退縮が待つています。
                            安保先生の書籍「免疫革命」より抜粋
第6章2,3の類似のガン理論 [2009年10月12日(月)]
P.62第5章 理論より

 私の理論は、ガンの一般的科学理論を意図したものではない。また自分の理論を他の理論や解釈と比較してみようとするつもりも、私には無い。医者が適切なガン治療を実施するうえでのガイドとして役立つことのみを目的としたものである。


P.74
●ガンは臨床家(治療現場の医師)が解決する!
 1953年シュットゥットガルトで開かれたガンの国際治療会議では、その後のガンの治療、ガンの認識について、画期的なものだった。そこでは、議長のザベル教授をはじめてして多くの専門家が、次のような意見を述べた。
「ガンの腫瘍の成長が始まる前に、生体の機能そのものが異常なものになっていることは間違いない…腫瘍をその部分だけの病気だと考えることは、全くの間違いである」
 ランベルト教授は、こう結論を下した。
「ガンの腫瘍の成長が始まる前に、生体の機能そのものが異常なものになっていることは間違いない…腫瘍をその部分だけの部分的な病気だと考えることは、全くの間違いである」
 ランベルト教授は、こう結論を下した。
「組織培養器の中では、ガン細胞は39℃でダメージを受け、42℃で死滅すると観られる。これに対し正常細胞がダメージを受けるのは43℃、死滅するのは46℃、47℃であろう。何人かの研究者の研究では、多少の違いが出ているが、これはやり方の違いによるものだろう(註39)」
註39:ランベルト教授『肉体の抵抗力とガンの成長』(1957年11ページ)
「…次の我々の課題は、ガン細胞の成長に及ぼす温度の直接的影響に関する知識を増やすことを第1にし、次いで、温度を上げることが体の部分的な反応、とくに腫瘍周辺部の組織の反応、および体全体の反応にどう影響するかと言った、温度の間接的な影響を詳しく調べることである。患者側の素因や体質なるものも無視してはならない(註40)」
註40:同著(160ページ)

 また、J.クール博士は、次のように報告した。
「私は細胞代謝の基本、つまり酸化現象、糖分解、栄養物質の燃焼と代謝の最終物質の分散と言ったことの研究から始めた。そして酵素、ビタミン、ホルモンその他の基礎物質も、2次的な意味を持つだけだということを発見した(註41)」
註41:J.クール博士『良性および悪性腫瘍の治療に成功する医療と食事のプログラム』
    (164ページ)

 博士はガン細胞の最終産物である乳酸を腫瘍の促進物質とみなしているのだ。博士は続けて、こう報告している。
「ガン細胞の成長段階および細胞のレベルでは、常に酸化現象が激しく起こっている。これは病理学的な増殖の中で、糖分解がたくさん起きていることを意味する。ノーマルな細胞の増殖の最終段階でも、激しい糖分解から主要な酸化現象への移行が起きている」
 クール博士の理論は、オイレルの発見に基づいている。そもそもオイレルの発見とは、ガン細胞の中では呼吸色素チトクロームが全く欠けていて、それがガン的な酵素システムを生む原因になっていると言うものである。つまりこれは、ガン細胞とはいわゆるチトクロームの欠如した細胞だ≠ニ言うことを意味している。ガン細胞がノーマルな細胞とは違ったものになり、発酵システムだけで生きているのも、このためである。もしそうでなければ、それらも変異その他の構造的変化を持たない、正常な細胞になっているはずである。
 ガン生物学のリーダーの1人リットル教授は「ガンの問題は専門家には解決できまい。むしろ臨床家(治療現場の専門医師)が解決するだろう」と話している。教授の云う意味は。患者の体全体を観察し、体全体のシステムを治そうと試みる臨床家(医師)が、問題を解くと言うに他ならない。
 ガンだけを問題にした膨大な専門文献に惑わされることが少ない分だけ、臨床家はもっと常識的な考えをもち、それだけ心が柔軟なものである。
 さらにE.ロイボルト教授はこんなふうに言っている。
「体の中の細胞は、正常細胞もガン細胞も全て、体全体の代謝のプロセスの中に存在し、そのプロセスと作用しあっている。そしてその代謝プロセスとは、ノーマルな細胞の増殖の場合も単細胞増殖の場合も。基本的は全ての細胞に対して同様な働きをしているものである。だから腫瘍とは体全体の病気の一部のシステムである。その体全体の病気とは、他の形の増殖を促す代謝のプロセスとはその程度が違い、一時的にコースを外れていると言う病気である(註42)」
註42:E.ロイボルト教授『腫瘍の成長および破壊と血液内容の関係』(1954年202ページ)

 また教授もザベル教授と同様に、この体全体の病気は腫瘍の出現以前に起きているのだとした。
「我々は、ガンを特別なタイプの病気と考えるべきではない。同一の代謝状況から影響を受けるのは、成熟したガン細胞も、それ以前のガン細胞も、また体の他の部分も同じである。全ては同時にかつ同様な仕方で同じ代謝の状況から影響を受ける。この事実からしても、ガンだけが特別なタイプの病気だと言うことはありえない」
 私も臨床体験の中でガン患者がガンの治癒と同時に他のいくつかの慢性病、関節炎、静脈洞炎、胆嚢の病気、多発性硬化症、喘息、外陰萎縮症、湿疹などが軽くなったり、完全に治ったりするのを観察してきた。
 ガンも含めていくつかの慢性病や退化病は、過去30年来余り問題にされずに来た。医者の頭の中ではガンは不治の病とされて来たために、ガンを熱心に研究することなど、意味のないことにされて来た。そして内科医はガンを外科医、病理学者、生物学者任せにして来てしまった。しかし他方ではガンの原因を発見したり、その原因が人間や他の動物の生理学上、あるいは栄養代謝上の相違の中で、どんな影響を及ぼしているかと言うことには、大いに関心がもたれて来た。
 また手術や放射線治療が成功しなかった患者は、ただ対処療法の薬だけを与えられて来たが、そうした療法は、この病気がそれでなくとも体内に常に作り出している毒素のうえに、さらに新しい毒素を追加することでしかなかった。
 患者自らが医者以外の治療家の元に鞍替えするのを防ぐために、外科医が何度も手術を繰り返すような場合は、我々(主に医師)は大いに問題にすべきである。このような非科学的なやり方は、それを誰がやるか、またその仕事が如何に難しいかと言うことにかかわりなく、もっと効果的な治療への道を開くきっかけにしなければならないはずである。外科医その他の医者のてでは、患者の生命がとうてい助けられない時には、単に気休めだけの手術ないしは手術以外の手を勧めないだけではなく、全ての可能性のある方法を考えるべきである。
第7章 パラセルサスの食事処方箋 [2009年10月13日(火)]
P.62第5章 理論より

 私の理論は、ガンの一般的科学理論を意図したものではない。また自分の理論を他の理論や解釈と比較してみようとするつもりも、私には無い。医者が適切なガン治療を実施するうえでのガイドとして役立つことのみを目的としたものである。


P.78
●人間のことは大宇宙を通じて理解せよ!
 パラセルサス(1490〜1541)はその著書で、「人間は宇宙と言う大きな宇宙の中の全ての法則に依存している小宇宙なのだ」と強調している。彼の言葉を著書から、引用してみよう。
「人間と自然はお互いに繰り返し影響を与え合っていて、これは水、地球、太陽、季節、星の動き、土壌などを通じ、最小の分子のレベルにまで至っている。我々はまた、宇宙や地球にあるもので、人間自身の中にも存在しないものは無いのだと言うことを、それ以上にしっかり認識する必要がある。人間そのものを支配しているシステムとは、大自然≠ネのだといっていい」(パラセルサス著作集、第1巻、25ページ)
 肉体には栄養が必要で、これを通じて人間は自然に結びついている。しかし人間が栄養として体に摂り入れるものの中には、毒物も有害な物質も同時に含まれている。これら有害物質も人間は摂り入れざるを得ないが、それに対処するために神は人間に、1人の錬金術師=胃を与え、これで有害物質を吸収しないようにした。胃は人間が摂り入れる必要のある栄養と、有害物質とを区別する。
 人間は自分自身を新たにつくり変えたり、消耗させたりを繰り返している存在である。自然がこうした自己保存の本能を与えた以上、自分の飲み食いするものに関する知識を人は学ばなければならない。それは偉大な自然が命じた、生命継続のための必須条件だからである。ある人が健康のために役立つものを食べ、命を縮めるものを避けるとすれば、彼は知恵と克己の人である。人間の義務は、自分の生命を存(ながら)えることである。
 栄養物質の中には未発見のものがたくさん含まれていて、これは星からの有害な影響(たとえば強い太陽光線)に対抗するのに役立つ。
 パラセルサスは偉大な自然の力には、人間に動物的欲望や悪い本能が起こるのを助けている力もあり、それに対しては、神が授けた理性や判断によって対抗したり、克服したりすべきものだと言う。飲食物は病的な状態を起すこともでき、彼は栄養が善悪あるいは穏健、凶暴など全ての性格をつくる要素になる、と信じていた。
 それぞれの性格、体質によって、人は土壌が肥料に反応するように食物に反応する。だから庭が正しい肥料を与えられれば改善できるのと同じく、人間も正しい栄養から恩恵を受けられる。医者にとって栄養は、最高かつ最善の治療手段になりえるものである(『秘薬』)。
食事はそれだけで唯一の治療法とすべきではないが、全ての治療法の基本としなければならない。だが、偉大な自然にそれが持つ治癒の力を最大限に発揮させるように促すことは、可能である。だが、栄養も宇宙や地球の影響下にある。だから医者は病気の力を打ち砕くのに栄養を用いるには、これらの影響力を正確に知り、こういう影響力を組み合わせることを学ばねばならない(パラセルサス著作集、第2巻、699ページ。なお、以後この章の引用は同書からのものである=訳者)
 食事は男と女では違う処方もされるべきである。なぜならば、食事は血や肉を体につけるためのものではないからである。食事はむしろ老廃した食物の残りかすや、汚れた血や肉を追い出すために、役立てるべきものである。だから医療や特別な栄養も必要である。治療に当たっては、医者は栄養と医療とがその患者の性と合致するように考慮しなければならない。この配慮は、健康な人間の場合には不要なのである。
 パラセルサスは体質性疾患の場合の食事に、非常な注意を払っていた。体質性疾患とは、最も広義には、代謝性疾患と呼んでいいもののことである(彼はこう云う病気を、酒石酸病とか結石病と呼んだ)。
 酒石酸は食物中には含まれているが、人間とは無縁の物質である。そして小さな鉱物、砂、土、あるいはニカワ(にかわは動物の皮や骨等を原料とし、これを水と共に加熱して製造した有機たんぱく質で、科学的には原料中に含まれるコラーゲンをその母体としています。 接着を主とする工業上の用途において、ほかの物質に見られない数々の物質を持っています。 )のようなもので、人体では結石になる(あくまでも過剰なタンパク質≠ヘ、です)。ただ人間の胃は、これを他の栄養物質と、選別するようには出来てはいない。選別は肝臓、腎臓、膀胱、腸の全ての中に組み込まれている鋭敏な胃≠ェ、やっている。人間の動物的霊魂(スペルマあるいは動物精気=jと酒石酸がらみの物質が固型化することによって病気が起きるのだと、彼は説いている。また、パラセルサスは結石をつくる病気に、静脈石、血管性痙攣、歯の病気、慢性消化器病、胃や腸の潰瘍、肝臓、腎臓の病気、通風、器官や気管支病、そして脳の病気までも含めていた(ただし、少なくとも程度のひどい結核は、結石性の病気とは別のもの、と彼はしていた)。
 また彼は、初期の頃には体の内と外の両方からの刺激が体質性疾患と密接に関連していると考えていた。そして彼は、外からの刺激物だけを栄養の中に含めた。このことによって、彼は栄養療法において、現代の考えに近い立場に立つことになった。酒石酸は主にマメ科植物、穀類、茎や根から人間の体に入って来る。これは、体内で甘くヌルヌルしたものに変わる。これに対し牛乳や乳製品、肉、魚は土(クレイ)に似たものを含み、ワインは酒石(ワイン・ストーン)をつくり、水はヌルヌルした石になる(と、患者を諭す=なだめる=脅した)。
 酒石酸の予防のためには、医者は食物に特別な注意を払わねばならない(第1巻、138ページ)。
「人間の栄養−飲食物はとくに、酒石酸のないものにしなければならない。そしてさらに特別な地方の食物にある有害な酒石は、ちゃんと確かめて取り除く必要がある。たとえばケルハイメル・ワインは、酒石を取り除くための大きな労作業を体に強いる。ネッカー・ワインは、そんなことは無い。だから前者は飲んではいけない」
 彼が書いている観察記録の1例も、紹介したい。
「私の知る限りウェルトリン=iイタリアのアルプス地方の谷コモ湖の南側)ほど、酒石酸の少ない地域は無い。ここではドイツ、イタリア、フランス、西半球、ヨーロッパ東部などに比べて、この病気が少ない。この国、ウェルトリンでは足通風、疝痛(せんつう)、拘縮、結石などは無い。私は長い旅行でもここより健康な地域は、発見できなかったほどである」(第1巻600ページ)
 いくつかの病気の治療のために、彼は特別な食事処方を示した。奉公や腎臓の結石には乳製品、チーズ、アルカリや鉛を含む水、雨水、潮だるみの海水、酸っぱいワイン、カニなどの甲殻類や魚などを禁じた。ミネラルやプリン体の多いものはリン酸塩結石、尿酸結石を防ぐために、直感的な認識で禁じられている。また痛みのある時には、膀胱の感覚を鈍くするために、ケシの実(モルヒネ)を勧めている(第1巻849ページ)。
 一方、膀胱石や胆石の予防のために次のような療法も勧めている。
「バターやオリーブは一番勧められるものである(第1巻152ペ−ジ)。胸焼けはワイン、塩漬けの肉や鹿肉で起こる(第2巻593ページ)。だからこれは避けるべきで、一方、これらの治療法としては大量のミルク、イナゴ豆、白亜(アルカリ)、シーリング用の土(マグネシウム?)、ある種の粘土、オーシャン・チョークを摂るように勧めた。また、彼はメロン・ジュースや果物でビタミンを毎日補給するように指導した。これを続けると、腸内の結石の予防になるというのが彼の説だった。
 この著作集の第2巻472ページではパラセルサスは足通風とその激しい発作には、オーストリアのザルツブルク州の温泉地などの湯治場での治療を勧め、同時に次のようにも書いている。
「当時註は、飲食も女性も控え目にし、女性とは全く接しないようにするか、ごく控えめにする」
 彼は魚を禁じたが、フライにすれば害は最も少ないとした。かたい肉もダメで、豚を材料にした食物は、全てを禁じた。飲み物では、年代のたった弱めの澄んだ赤
ワインが一番よく、ビールはまれにしか飲んではいけない、とした。
 予防としては、4つの事を避けよ、と助言している。−香りの強いワイン、大食い、怒り、女性、がそれである。これらは控え目にすればするほど、貴方のためにはよい、と書いた(第2巻、487ページ)。
 さらに脳、あるいは延髄の発作、めまい、肋膜炎の予防としては、スパイス類、強いワイン、薬草のワイン、ニンニク、マスタード、ビネガー(酢)、魚を禁じ、とくにフライにした食物は厳禁とした。節制はよくし、しかし、飢餓感や渇きに苦しむようではいけない、人はその日その日の全ての時間において、自分の習慣を忠実に守らねばならない。私の意見は断食の勧めではない。治療のための勧めだ、と説いた。
 感染症は内因的に酒石酸病とは対照的なもの、とパラセルサスは考えていた。彼の時代には、細菌の感染によって起こる病気はまだ知られていなかった。占星術的な見方の中で、彼は感染性の病気を星の影響だと考えた。こう云う病気は熱によって患者の体を消耗させ、体を干上がらせる。だからこう云う病気の秘薬は水分のある食物を摂り大量に水分を摂ることだ、とした。
 ペストの患者には肉、卵、フライにした食物を与えるな、と言っている(第1巻、729ページ)飲み物としては、ただの水またはバラのビネガー(酢)の入った大麦のスープだけを許可した。最も役立つのは、大麦の重湯だとした(この大部分は元々はヒポクラテスの教えであった)。

〔結論〕
 パラセルサスが食事に関して述べたことは、一様ではない。しかし、読者は彼の言葉の中には食物、つまりその化学的効果を組み合わせると言う考えが、いたるところに見えるのに気付くはずである。
 彼の著作の随所に見えるものは、物を最も微小な単位(原子)にまで分解して説明を求めることを、彼が如何に好んだかと言うことである。あたかも彼は、物の内部を顕微鏡的に覗き込めるような透視の力を欲していたかのごとくである。
 素人には表面しか見えないが、医者はその内部まで見通すことが出来て、それによって全体の姿をつくっている隠れた事実が観られるようでなければならない。一片の木や骨の欠片(かけら)からでも隠れた事実を見つけなければならない。
 驚嘆すべきは、化学反応に関する彼のアイディアと、化学的現象に関する情熱的な思考である。彼はそう言う現象を、肉体にも当てはめて解釈した。そしてこれは、本人が生きていた時代には、はるかに先駆けたものであった。パラセルサスは全てを源から探求しようとして、その源の中に、いつも3つのものを見ていた。天と地と小宇宙がそれであった。彼のこの見方は、治療においても同じだった。人間のことは大宇宙を通じてのみ理解できる、彼自身を通じてだけでは理解できない、と言うのがパラセルサスの立場だった。
 この章の短い紹介は、彼の時代の知識水準に対比して、パラセルサスの言葉がどんな歴史的意味を持つかを示そうとしたものではない。ただ私は、彼の著作がどれほど啓発的であり、著作のいたるところに光っているアイディアがどれほど豊かであったかを、紹介したいだけである。またさらに彼は、根源的な原因のつながりを発見することに情熱を燃やし、少なくとそれに近づき、それを肉体の外の、自然の永遠の法則と小宇宙の内部を支配している同じ法則とに一致するものにしようと、彼一流のやり方で努めたのであった。
第8章いくつかのガン食事療法 [2009年10月14日(水)]
P.62第5章 理論より

 私の理論は、ガンの一般的科学理論を意図したものではない。また自分の理論を他の理論や解釈と比較してみようとするつもりも、私には無い。医者が適切なガン治療を実施するうえでのガイドとして役立つことのみを目的としたものである。


P.85
●活用されることの無い食事ガイドの悲劇
 K.H.パウエルは「食事によるガンの予防と治療は、はっきり区別して考えねばならない(註43)」と述べ、ガンの食事療法に対しては、明確に否定的な態度を執っていた。このような立場から、彼はいく人かの研究者の食事療法の処方箋をリスト・アップしている。
註43:K.H.パウエル『ガンの問題』(1949年605ページ)

(1)フィッシャー・ウェルズ(論文発表年度1930〜1935年)は過食を避け糖、水、塩、ビタ
 ミンB類、コレステロール、アルカリの少ない食事を勧めている。また酸性の食品や酸を追
 加しての、好酸性の食事も勧めていた。
(2)オウラー(論文発表年度1937〜1941年)は食事には制限を加えず、塩もスパイスもタ
 ップリ摂らせ、生肉を週に数回摂り、野菜や果物のジュースを飲み、動物脂肪の代わりに
 植物油をと勧めた。
(3)長期にわたり高い評価を得ていたのがフロインド、カミネル両者の食事処方である。2人
 は動物脂肪の代わりに植物油を勧めた。これは病原性の大腸菌の増殖を抑え、ノーマル
 な脂肪酸の生成を防ぐためだった。炭水化物は控え目にし、腸は下剤その他の医療処置
 できれいにすることを勧めた。この2人は食べていいものといけないもののリストを、1912
 〜25年にかけて、最初に示した医者だった。
(4)ウィーンのクレッツは、ガン患者の一般状態が改善されると言う点で、フロインドのやり方
 を熱心に勧めていた。
(5)フランクフルトのブリーニングは、1930年代にインスリンを補いながら炭水化物を減ら
 し、タンパク質をたくさん摂る食事を勧めた。彼は、体を酸性にすることがいいと信じていた。
(6)フランクフルトのザルツボルンは、手術不能な患者に食事ガイドを示した(1940年)。タ
 ンパク質、脂肪も少なくし、炭水化物も発酵やガスのできるのを防ぐために減らす。またビタ
 ミン、ミネラルも少なくする。これが彼のガイドだ。
(7)インジエボスはメーソンの考えを基本にした、食事ガイドを示した(1942年)。脂肪や脂
 肪の多い食事を避け、とくにコレステロールの多い食物は避ける。人工着色料入りの食物
 や、飲み物は避ける。また塩、肉、冷凍や燻製、殺菌した魚を禁じた。消化のいい食物は
 許されていて、脂肪のない肉や魚は食べてもよく、野菜スープ、オートミール、植物油、果 
 物やイモ類も、食べていい食物の中に入っていた。パンも食べていい食品で、アルコール
 類、タバコ、コショウやカラシ、パプリカは禁じた。

 ところでパウエルはガンの月刊雑誌を通じて、34人の医者に送ったアンケートの回答を要約して紹介している(註44)。その結果によると、ウィーンのデンク教授1人を除き他の医者は、全員ガンの栄養療法に否定的態度だった。食事をガンの原因≠防ぐ予防手段としては見ていても、治療手段とは見ていない回答者もいた。
註44:『月間ガンとの闘い』(1936年9号272ページ

 『ガンと食事』と云う著書でF.L.ホフマン博士は、ガンは元々部分的な病気でないがゆえに治療も部分的に腫瘍を問題にするだけであってはならない、と言う結論に達している。
 「食事や栄養上の欠陥の結果として起こった代謝の乱れは、さまざまな形で表面化する。そしてそれは現代的で正確な科学的検査法、胃や血液の検査、血液のトラブルを調べるその他の精密な検査などによって、確かめることが出来るものである。
 私はガンの背後の原因は有機物やミネラルの量が多く、酸性よりはアルカリ性に傾いた食品を摂り過ぎる結果だと堅く信じている。…一言で云えば、今日の栄養学では、全ての飲食物をもっと控え目に摂ることを緊急に教えなければならない。もっと詳しくいえば食物、とくにスパイスの過剰な食品の摂取を控え目にすること、アルコール、コーヒー、お茶のような液体類をタバコと同じように控え目にすることなどである。どんなものでも、摂り過ぎれば部分的な腫瘍の増殖を助ける結果になってしまう…。私は自分が発見した事実をありのままに発表することが、自分の義務だと考えている。その事実とは、ガン患者に明らかにまた格別な程度で驚くほど、栄養の摂り過ぎが共通して見られる、現代のガンの背後には、食物消費の明らかな過剰が真因として存在していると言うことである(註:45)」
註45:F.L.ホフマン『ガンと食事』(1937年)

 『現代栄養学の食事療法への臨床応用』(M.G.ウォール他編)と言う本で肺ガンを、本質的には外科的な病気だとしている。胃の部分的、ないしは全部の切除の後でのみ術後の食事のことを考えよと言う立場に立っている。本には次のように書かれている。
 「患者が手術を生き延び回復期にはいったならば、食事は自由にしてよい。食事になんの制限も要らない。胃を部分的に切除した患者は、健康者と同じように食事をすることが出来る(註46)」
註46:M.G.ウォール他『現代栄養学の食事療法への臨床応用』(1946年573ページ以降)

 しかし、スターンとウィルヘルムは書いている。
 『食物の量と主要の増殖に関しては、非常に多くの専門家が食物を制限すると腫瘍の増殖が抑えられるとしている(註47)。
註47:K.スターン他『悪性腫瘍の生化学』(1943年391ページ)

 ホフマン、フリードベルゲル、タネンバウム、カスパーその他の人々が、同じ立場からやはり食物制限を勧めている。本当の療法は多くの処方箋のどこにも発見できないが、食事療法に悲観的ではない専門家も、このようにいることは事実である。
 1952年の腫瘍の総合治療国際会議では、色々な食事ガイドが発表され、正しいアプローチも多くなった。しかし、これらは実際の治療に活用されることなく終わった。
 1つあるいは複数のビタミンや酵素の利用、またこれらと一緒にミネラルを利用せよといった、多くの主張がある。しかし、ここでこういう主張に一々触れる必要はないであろう。あれこれの酵素、ビタミンあるいはミネラルこう云うものの複合体が酵素系の乱れを修復したり、細胞内の状況を変えると言う主張は、幼稚な考えであろう。
 100年ほど前、オットー・ボルカーは書いた。
 「1つの病気が、どれだけ治療によく反応するかと言うその程度は、我々(ことに医師)が持っている治療手段の和に反比例するものだ」 
 この言葉がいままで何千もの治療法が説かれてきたガン治療の場合ほど、よくあてはまる例は無い。昔はカニやカニのスープがいい、と言われていた。これは「似たものが似たものを治す」と言う理論の応用だったのは間違いない。便通療法、イースト菌療法、さまざまな食事ガイド、充血法とその反対の療法、瀉血(しゃけつ)、サメ軟骨―最初は黒いのを使い、効果が無い時には次に赤いのを使う。腐食泥膏、焼きゴテ療法、バイプ粘土、血液浄化の薬草茶、金・銀に水銀,銅やリンに砒素などを内服と外洋で使う療法、麻薬に寒気―そして細菌の化学療法の始まるずっと以前に酸、アルカリ、発汗剤、あらゆる種類の植物製剤や、これにスミレの葉やヒキガエルを含むものなど、それに自家ワクチン(ブルメンタール)、多糖体(ハット)、丹毒菌の摂取など、その治療法は数限りない。
 現代的なガン療法(1958年現在)には外科、放射線治療、ラジウム、イオン化ミネラル類(金・リン・ヨード・コバルト)数種のビタミン剤の組み合わせ、ホルモン療法R社のヨード酢酸塩、クレビオゼンなどがありこの他にも、最新の療法(1958年)として「皮膚にガンを起させると、それがガンの広がりを防ぐ。1ヶ所にガンが起きると他に拡がるのがかなり抑えられるからだ(註48)」とする療法もある。
註48:S.ペラー博士『人間のガン』(1952年488ページ)
 
 W.H.ウォグロムが書いているように「ガンの治療法が今日は無いと言っても、それは今までに試みられていなかったせいではない(註49)」わけである。
註49:W.H.ウォグロム『腫瘍の化学療法のアプローチ』(1947年1ページ)

 ガンの増殖に影響を与え、かつ少なくとも苦痛を軽減するための治療方法の全てを歴史的に調べて示すことは非常に難しい。全てを調べれば、何千と言う目録になるからだ。それはまた、自然な観察に基づいた昔ながらの療法等が世界中のどこの国にもあるはずだからである。免疫学に生化学、細菌学など、どの分野においても現代の科学的治療法は全て試みが失敗して来た。
 腫瘍と酵素の関係を要約してスターンとウィルハイムは書いている。
 「酵素を腫瘍の治療に使うことに関し、何らかの酵素を使うことが細菌内の酵素トラブルを治す効果的な治療法だと主張するとすれば、その考えは幼稚すぎる。事実として病理学一般の中でそう言う実例は、1つだって解っていない。解っているのは、腸内の酵素が相対的に不足している時に、酵素治療(ペプシンとトリプシン)が。効果的だと言うことが証明されているだけだからである(註50)
註50:K.スターン『悪性腫瘍の生化学』

 ロイボルト教授は血液の反応気候−コレステロール、糖、リンのシステムを変えるやる方で、ある効果を上げた(註51)
註51:E.ロイボルト教授『腫瘍の成長および破壊と血液内容の関係』(1954年14ページ)

 ペラーは自著で次のように言って、1つのガン理論を唱えている。
 「1つの器官のガンは、他の器官がガンになるのをかなりの程度防ぐ。だから治ったガンの後には、体の他の部分に他の原発ガン腫瘍を出来るのを防ぐ、強い抵抗力が残される。この抵抗力の正体は判らないが、これをガンのコントロールのために利用することは可能である。…原発のガン腫瘍は、その患者がガンになりやすい一般的体質を持っていることを部分的に示すしるしである(註52)」
註52:S.ペラー博士『人間のガン』(1952年488ページ)

 彼は結核患者についてのいくつかの観察から、この考えに到達した。皮膚の結核(狼瘡)になると、他の器官、とくに肺が結核菌にやられるのが防げると唱えている人が何人かいる。
 最後にこれまで紹介したガンの治療法の中に観られる矛盾について、少し説明しておくべきだろう。
 科学者たちが何世紀にもわたって、問題の確信を避けて通って来たのは、医学史が示すとおりである。「自然」の秘密が1つ明らかになると、すぐに懸念や疑念が起こる。医学史は、悲劇的な誤りに満ちている。その誤りとは基礎理論が発見されても、それが人類のために実際の医療に応用されるまでには、長い時間を無駄にすると言う誤りだ。ハメットは最近(1958年現在)の論文で書いている。
 「このような時間の空費が最も悲劇的な結果を招いているのは、ガン研究の分野である。ラウス、ショープ、コーレ、ビトナー、ストロング、グリーン、ウイリアムズ、テイラー、ファース、コドリー、デイらー、ボードン、ビリー、スタンレイ、ウイコッフ、クニックやその他の研究者たちが提出しているデータの集積は将来のガン患者たちのために、外科手術やラジウムよりいい治療があるのだ、と言うことを示すものになっている。しかし、それはただの偶然の結果などではない(註53)」
註53:『サイエンス』誌(第103巻2685号)
第9章ガンの初期症状 [2009年10月15日(木)]
P.62第5章 理論より

 私の理論は、ガンの一般的科学理論を意図したものではない。また自分の理論を他の理論や解釈と比較してみようとするつもりも、私には無い。医者が適切なガン治療を実施するうえでのガイドとして役立つことのみを目的としたものである。


P.91
●早期発見が難しい理由
 ガンの初期段階では、活力やエネルギーが無くなり体全体が弱り、「すぐ疲れるとかぐったりする」と言う訴えを患者はする。これは他の多くの病気と変わらない。こういう初期症状から「ガン」と言う診断が下されるまでには、何年も経過することも、何週間か数日間のこともある。また初めての診察でガンが発見されることもある。
 実際上で重要な意味を持っていることは、胃ガンの場合は最初は何の臨床症状もなく、他の病気で手術した時に偶然に発見される場合がかなりある、と言うことである。優秀なガン予防クリニックで「数ヶ月前に検査を受けた時には何も変わったところが発見されず、疑いさえもたれなかったのに…」と言うガン患者を、私は多数観ている。公的には予防や早期発見が唱えられている。しかし、実際に早期発見と言う目的を達するのは、このように容易なことではない。
 ガンは体全体の代謝が狂った病気、とくに肝臓にそれが集中する病気だと言うことは前述した。そう言う観点に立っている私には、ガン診断のための特別な検査法が将来も出来るとは信じられない。それとは逆に私は結核、多発性硬化症、肝硬変、筋ジストロフィーやその他多くの退化病の中にガンとよく似た臨床症状、あるいはほとんど同じ症状を診て来た。とはいえガン、とくに末期のガンの中には、他の退化病の場合の乱れとは違ったものがあるように見える。
 しかし私も、この違いを明確な証拠として示すほどの客観的なデータを充分に持っているわけではない。
私の体験に寄れば、医者はそもそもの最初から、あるいは最初に目立ってよくなった直後に、患者にガンと言う病気の深刻さを知らせることが大切である。患者の自分の体の器官の機能を立て直すために、自分が何をしなければならないかを充分に知らねばならないからだ。この治療は難事業で緊急のものであり、患者が自分を治療に専念。適応させ、それをやりぬくためには彼自身がそのことを正しく理解していることが何より必要なのだ。ガン治療には歯の治療も絶対に不可欠で、歯や炎症を起こした歯肉が細菌に感染したり、そこから有害なものが発生したりしないようにしなければならないからだ。
 回復した後では、予防的に2つの要素が必要である。1つは体内にカリウムとヨードを不足させないこと。もう1つは肝臓をはじめとして重要な器官の機能をちゃんと維持するようにすることである。血液中のカリウム値を正確に測定することも、器官の中のそれを検査することも出来ない。しかし経験から、いくつかのことが次第に判って来ていて、将来の患者には、それを元に役立つ支持が与えられる。
 私は自分の発見を次のように、繰り返し言っている。
 患者の中には何年にもわたって、カリウムのレベルが低いままの人もいる。この人々はカリウムの最低ラインよりも少し低いほどである。しかし体調はよく、症状は起きずにいる。だがカリウムのレベルが最低ラインより1.5〜2ミリグラムも低く、そのままの状態が長く続くようではいけない。再発を防ぐために、こういう人は医療処置や食事で手を打たねばいけない。
第10章ガンと肝臓 [2009年10月16日(金)]
P.62第5章 理論より

 私の理論は、ガンの一般的科学理論を意図したものではない。また自分の理論を他の理論や解釈と比較してみようとするつもりも、私には無い。医者が適切なガン治療を実施するうえでのガイドとして役立つことのみを目的としたものである。


P.94
●肝機能の重要性は植物の葉緑素に匹敵する!
 「肝臓は体の中の最大の器官であり、その生理学的機能の複雑さと重要性は、他のどんな器官とも比較にならない。だから健康な時も病気の時も、肝臓の状態とその機能のレベルが体全体の効率を大きく左右するものになる(註54)」
註54:W.A.D.アンダーソン『病理学』(1948年861ページ)

 生理学的に云うと、肝臓は長い間ダメージを受けたままでも機能し続けることが出来る。肝臓の機能には大きな予備能力があって、それが使い尽くされるまでは肝臓機能の低下を外から発見することが出来ないのである。さらに肝臓は再生能力も大きいので、機能の低下が広範囲かつ急速なものでなければ、部分的なダメージは自分で修復してしまう。
 肝臓は多様な機能を持ち、その機能の大部分は他の器官の働きと密接に結びついている。だから肝臓の機能レベルを知るにはいくつもの検査が必要になる。また、はっきりとしたこと言うためには検査を何度も繰り返す、必要がある。この大きくかつダイナミックな器官は、常に機能の向上と低下を繰り返しているからである。肝臓の重要性は植物の生命と代謝の支配者、つまり植物の葉の中の葉緑素と比較すると一番よく解る。
 何人かの研究者が消化器系の色々なガン患者50人の肝機能を調べた結果では、そこにはっきりとした障害があった、と言う(註55)。また、腫瘍を切除した後では、しばらくの間肝機能がある程度回復したことも報告されている。このこと事から肝機能の低下は回復可能なものであることが解る。私が本書で述べている療法でも、同じことが期待できる。つまり腫瘍の塊やそのグリグリを吸収してしまうことと肝機能の回復がそれである。
註55:アベル他『内科学ぶ年鑑』(1942年)

 J.グリーンスタインは書いている。
「肝機能の低下がガンの付随現象だと言う事は、ほとんど疑いが無い。そう言う傷(いた)んだ肝臓が通常の手術に余分なリスクを追加するものになっていると、他の人々が発言しているとおりである(註56)」
註56:J.グリーンスタイン『ガンの生化学』(1954年版509ページ)

 ガンの生化学に関するいくつかの本は、ガン患者の肝機能の低下を3段階に分けて記述している。
 第1段階は、ガンが成長し発見される時期である。しかし、この時期では多くの専門家が言っているように、肝機能の低下があるのは確かでも、それを検査や触診で発見することが出来ない。しかし私は肝臓は既にカリウムやカリウム・グループのミネラルを失っていて、その結果として全ての細胞の成長をコントロールするのに充分なだけの量の酸化酵素の再酸化がされえなくなっていると信じている。
 第2段階は腫瘍が増殖し腺に転移が現れる時期である。この時期には肝臓が大きくなっている(肝肥大)のが触診で判るし、他の器官に浮腫が観られたりする。この時期にはガンの活動は既に強まり、同時に体の防衛力や治癒力は低下していると考えられる。
 第3段階はガンが猛威を揮(ふる)い、主要な器官に毒素が急速に回り、器官が破壊されて行く。そしてやがて器官は分解されてしまう。肝臓も同様で、その形も機能も維持できなくなる。
 第1段階では腫瘍のタンパク質も通常の食物から供給されていると思われる。しかし、第2段階ではそれが多かれ少なかれ、筋肉の組織から奪われたものでまかなわれているのは多分、間違いない。この時期にはかなりの高脂地血症が現れ、体内の脂肪の蓄積が食い尽くされるまで続く。
 第3段階では肉体の防衛能力はほとんど残っておらず、筋肉や肝臓の実質が急速に失われる。腫瘍がどのようにこのような状態をつくりだすのかは解らない。
 J.グリーンスタインは腫瘍が血液中に回る毒素を生み、それが体の組織の異化作用を促進するのだろうと見ている(註57)。
註57:同書(513ページ)

 R.ケラーはカリウムおよびカリウム・グループのミネラルが次第に失われ、それが筋肉や肝臓の細胞質の電気的ポテンシャル(潜在能力、保持能力)や防衛能力を低下させると考えている。カリウムが欠乏し腫瘍の生み出す有害物質が増えることで、内臓の神経組織が刺激されることが有害な結果を生む1つの寄与因子になるように思われる。
 ガンと肝臓、あるいは胆嚢(たんのう)系を1つに結び付けて考えた最初の医者は、多分、フレリックスで1961年のことだった。後にツェンケル、フュータラー、ジーゲルト、ブロンドなどが同じ立場をとった。しかしクレール、ヘルレルなどはこういう関連を否定した。また、病理学者は別な考えを持った。アショッフとバックマイスターは、肝臓や胆汁系の病気は偶然のものだとし、ルバルシュなどはこの見方に反対した。
 臨床家や病理学者、生物学者の誰もがどっちが最初のもの―つまりどっちが原因なのかを決めかねていた。いつ肝臓や胆汁系の病気が始まったのかを判定できないことが、非常に大きな問題なのだ。ノーバートやグリンバーグのグリシンC16による新しい検査法は、腫瘍を持った動物の肝臓や細胞質はタンパク質の代謝が多くなっていることを証明した(註58)
註58:『キャンサー(=ガン)』誌のレポートによる

 妊娠の時にも腫瘍を持った動物の肝臓をグリシンC14やグリシンC12で調べた時と同じことが起きている。これは体のどこかで急速な成長が起きていることを示している。このことは、こう云う状態がガンだけに特別な状態でも、また特別な毒素によって起こっている状態でもないことを意味している。
 体内では全ての最も根本的なプロセスは一緒に働き、お互いに依存しあっている。そして病気の時は、これらが一緒になって狂う、と言うことを知ることが大切である。
 1955年の第3回国際生化学会議で発表された論文でも、S.スピーゲルマンは言っている。
 「過去60年以上にわたり酵素適応≠ニ言う題目をつけた。微生物学上の観察報告の文献が発表されて来ている。この中では、酵素適応があるために細胞が成長したり、細胞の酵素パターンがハッキリ変わったりする1つの物質のことが指摘されている。そして最近(1958年現在)の10年間はこれと類似した発見に、新たな関心が寄せられている。また昔は無かったような、より厳密な技術や方法を使って遺伝的あるいは酵素的側面を改めて調べるようになって来た。こういう新しいやり方のおかげで、多くの酵素適応と言う現象には次のような重要な特徴のあることが明らかになった。
a)酵素反応の変化は前もって存在している変異のタイプから選択するということによって起こ
 るのではなく、常在の遺伝的バックグラウンドに対して、酵素的な修飾がなされることによっ て起こる。
b)観察される酵素活動の変化は、活性化されるアポ酵素の出現に帰せられるものであって、 誘発される基質の代謝に特有な補因子、あるいは中間物質が蓄積されることによるもので
 はない…だから遺伝子が酵素合成の可能性をコントロールするといった見方は、修正する 必要がある」
 肝臓のことは従来ある部分では誤解され、ある部分では見逃されて来た。そしてこれは今(1958年現在)もそうである。代謝の問題とそれが肝臓に集中するということを、正面切って問題にする必要がある。ガンも単なる症状として理解するべきでは無い。そうすればガンの結末は、臨床的には好結果かそうでないかに終わり。剖検もハッキリした結末を示す。また腫瘍を殺すことが出来るかどうか、破壊・吸収・消滅させられるかどうか、病人が回復できるか否かといった予測も立てられよう。
 ガンからどのように回復できるかは、他の主要な器官にトラブルや破壊が起きていない場合で云えば、肝臓をどこまで回復させられるかにかかっている。
 肝臓に対する治療は、一般的に症状対応的なものになる。しかし私の治療法の場合は、そう言うものではない。パーマンは云う。
「肝硬変が肝臓の原発ガンと密接な関係があることは、次第に明らかになって来ている。また両病の病理に、環境的要素が大きく関わっていると言う証拠も増えている」
 また、K..ブロンドは云う。
「我々は肝硬変は、それだけで独立の特別な病気では無いと言うことを、明らかにしようとして来た。しかし明らかに出来たことは、今日の医学界が肝硬変を独立の病気と考えざるを得ないような多くの状態に至らしめる一連のことを起すもとになる、代謝の乱れのある兆候のことだけだった。我々が胃炎、十二指腸潰瘍、胆のう炎、膵臓炎、直腸肛門炎その他の病名で呼んでいる病気の代謝の乱れの症状は、肝臓機能のトラブルと門脈圧亢進症に始まるダイナミックなプロセスの1つの姿に過ぎないと思われる。そしてこれは最後には肝臓組織の硬変やガンになる。ガンは肝臓の慢性的ダメージが原因で起きる、体細胞の変異である。体細胞の構造的変化は代謝の乱れの結果であって、原因ではない(註59)」
註59:K.ブロンド『肝臓とガン』(1955年136ページ)

 ブロンドは1928年以来ガンの生理学と病理学を胆汁の生成・吸収・分泌・貯蔵や他の協働的器官のトラブルを通じて説明しようとして、この問題を調べて来た。そして彼は細胞の組織や器官の解剖学的構成や、1つ一つの器官のことを調べるより、人間の生理を全体として探求するなら、これらの問題の大部分に回答が見つかるだろうという結論に達した。この結果彼はJ.グリーンスタイン(註60)のようなガンの起きた場所そのものの直接的研究≠主張した立場とは、反対の立場に立つにいたった。
註60:J.グリーンスタイン『ガンの生化学』(1954年版598ページ)

 ブロンドはこの考えを基礎とした治療法を創始しようとはしなかった。しかし統計的観点から「内臓のガンの患者の98%は、そのガンによってではなくて肝臓の障害で死ぬ(註61)」と言う結論を出した。しかし彼は、肝臓の働きを強化して体を病気と闘わせたり、維持させるためのガイドを示すことは無かった。彼の見方は正解で、納得出来るものに思われる。しかし肝臓の症状を列挙した彼の指摘には誇張も感じる。大多数のガン患者は肝臓の肥大と言う前肝硬変¥ヌ状を示すとは言え、全ての者が肝硬変であるわけではないからだ。
註61:K.ブロンド『肝臓とガン』(197ページ)

 G.メデス博士は1955年のアメリカ生化学会議で、肝臓ガンになったネズミは体中の細胞の代謝に変化が現れる、と報告している。博士はこの発見は、体内にガンが出来る出来方を知り、それを予防する方法を考える上で役立つだろう、と述べた。博士は、生き成長する組織が色々な食事条件の時に、どのように脂肪を作り利用するかと言うことを、集中的に調べた。そして脂肪と炭水化物からつくられることが知られている酢酸を、食物の内容を示す目印として使った。博士はそれ以前に次のことを明らかにしていた。つまり、全ての組織は体に必要な脂肪をつくるのにこれらの物質を利用しているが、ガン組織の場合には、その速度に違いがあるのである。ネズミの正常な肝臓は脂肪の合成に酢酸を利用したり、それを酸化させて炭酸ガスと水に変えたりするのを腫瘍の何倍もの速さでやっている。逆に、炭水化物に関してはその過程が非常にゆっくりになっている、と言うのである。
 1926年のメイヨー・クリニックの報告では、肝臓ガンは全ガン中0.083%と言う非常に低い発生率だった。しかし、その後に増加し続けて1948〜52年にはそれまで無かった最高の発生率が記録された。多くの専門家が、これを肝臓病や肝硬変の全般的な増加のせいだと見ている。これらの病気が細胞のガン化の原因と観られているわけだ。最新の統計も肝臓の原発ガンの発生率は、ある人種グループやある地域でとくに高い、と言うことを示している。
 一般的に云って、原発の肝臓ガンは白人よりも有色人種にずっと多い。他のガンは有色人種に少ないのに、である。ヨーロッパやアメリカでは全ガン中、肝臓ガンは1〜2%なのに中国では33%、ジャワ島では36.1%、フィリピン22.2%、日本7.5%、南アフリカのゴールド・マインでは86.6%である(1958年現在)。ユーイングらは原発の肝ガン(ペパトーマ)と50%の胆管腫は肝硬変と結びついているのを明らかにした。肝硬変と言うダモクレスの剣は腹部の器官に進んだガンを持つ全ての患者の頭上に、ぶら下がっているものなのだ。これらの器官は皆、門脈を通じて肝臓にそれぞれからの血液を送り込んでいる。そしてフィルターとしての肝臓が防衛能力を失えばすぐにそこにガン細胞が定着すると言う現象が、しばしば起こると言うわけである。
 肝臓の奇形腫は極めてまれである。肝機能テストについてはそれぞれ専門の教科書に譲るが、アベルス、レッカーなどが腸肝ガンの患者には肝機能の障害が多く観られる、と報告している。
 スペルバーグは自著で「原発の肝臓ガンは健康な肝臓に比べ肝硬変症に伴って肝臓に起こる場合がはるかに多い。だから肝臓の硬変は前ガン的な症状だと言える(註62)」また彼は「肝臓病の治療には適切な食事が決め手だと言うことには議論の余地は無い(註63)」とも云っている。
註62:M.A.スペルバーグ『肝臓病』(1954年427ページ)
註63同書129ページ

 何人かの研究者が腹部の器官のどれかから腫瘍を切除した後で、最初に回復を見せる器官は肝臓だと言う観察結果を報告している。この観察は腫瘍が生み出す有害物質が、後の段階では肝臓の病気の原因として作用していることを示している。
 実験によるとガンが第2段階に進むと、ガンを持った動物の体から多かれ少なかれ、窒素分が摂られていくのが判っている。そしてこの段階では肝臓が肥大し、それが動物の体重プラス腫瘍の重量と相応の関係を見せる。しかし、死ぬ前には肝臓は大きさも目方も急速に減少する。肝臓は自分の最後の蓄積を全身に供給しなければならないからだ。最終的には肝細胞の中で多くのホルモンや代謝のプロセスが低下していることが、肝臓の還流から判ると言っていい。アンドロゲンや活性化されたビタミンや酵素の存在から、肝臓は再酸化や代謝の再生がやれるものだと言うことが証明されて来た。ほとんどの酸化酵素は肝臓の中で再活性化されるのだと考えている研究者もいる。
 肝細胞の働きは肝臓にとってこれほど重要であり、それは植物における葉緑素の働きに匹敵する。肝臓は生物学的にこれほどユニークな働きを持っているので最近は生命の平衡輪(バランス・ホイール)≠ニ呼ばれるにいたっている。
第11章何人かの医師の肝臓病治療 [2009年10月17日(土)]
P.62第5章 理論より

 私の理論は、ガンの一般的科学理論を意図したものではない。また自分の理論を他の理論や解釈と比較してみようとするつもりも、私には無い。医者が適切なガン治療を実施するうえでのガイドとして役立つことのみを目的としたものである。


P.102
 門脈性肝硬変について、デットウェイラーはこう云う。
 「門脈性肝硬変症患者で生きている間は間欠性感染その他の病気のあることなど疑われもしなかった、しかし死後、偶然に門脈性肝硬変症が発見されるというケースは珍しくない。このことから早くにその病気を発見することは、とても難しいことが解る。だが注意深く調べれば食欲の喪失、体重の減少、吐き気、放屁や時々の嘔吐などと言ったものが確かめられる(註64)」
註64:『医学テキストブック』(1938年791ページ)

 そして肝臓や消化器系のガンについて、彼はこう書いている。
 「一連のトラブルは極めて内的なものであり脱力感、食欲の減少、全般的な健康レベルの低下…などの形で表面化する。そして少しずつ体重が減るとか二次性貧血(慢性病や退化病に特徴的)が観られるのが普通である(註65)」
註65:同書(129ページ)

 「肝臓の病気そのものの症状と判断できる症状は現れることが無いかもしれない。しかし、肝臓のあたりの膨張感や不快感は、しばしば感じ取れる。単純なケースでは黄疸、腹水症、痛みなどは無い。だが漠然とした胃腸のトラブルは起きやすい(註66)」
註66:同書−肝臓の退化病(803ページ)

 肝臓には互いに関連のある色々な系が集中して存在している。
 たとえば
1)肝臓の実質系
2)胆汁系
3)網内系
などである。
「肝臓は色々な解毒機能を果たしているが、どこでどんなふうにそれが営まれているかは正確にはわかっていない(註67)」
註67:J.ジェンセン『医学の現代的概念』(1953年174ページ)

 多くの酵素系、ビタミンミネラル(銅、コバルト、マンガン、鉄、カリウムなど)に関しても同様のことが言える。酵素やビタミンは肝臓の中で結合されたり貯蔵されたり、最活性化されたりしている。アルブミンも肝臓の中、多分クッパー細胞の中でつくられ、グロブリンの方はリンパ球の中でつくられている。肝臓が傷(いた)んだ時には、それらが増加する。ただ、その理由は解っていない(1958年現在)。だがアルブミンをグロブリンで割った比率は、肝臓病の時には低下するので、これが1つの検査法として使われている。
 肝臓の原発ガンは、全てのガンの200分の1である。多くのガンは転移性を持ち、また消化器系から発生している。
(肝臓の病理学に関しては前章=10月16日更新分を参照にして欲しい。原本には重複して記述されているが、紙幅の関係で省略する。その部分に註68〜71もあるが、ここでは省く=訳者注)

●食事の質とその与え方について
 肝硬変には大量の炭水化物を食事から摂ると、いい結果が得られることが認められて来た。グリコーゲンの肝細胞を保護する働きに加え、炭水化物はタンパク質を節約する働きがあって、これもいい結果を生む。つまり炭水化物には、二重の保護的働きがあるように観える。食事の中に充分なタンパク質がある時には、それを体の修復のために充分かつ必要なアミノ酸として使わせるのに炭水化物が役立つ。タンパク質を同量のカロリーの炭水化物で代用することは出来ない。それをしようとすれば臨床的にも生化学的にも、体にダメージを与える結果を招く。だが直接的な糖熱源としての充分な炭水化物が摂られている場合には、食事で摂った100グラムのタンパク質のうち、58グラムが炭水化物に変換されることが免れ、熱源にされずに済む。
 しかし肝臓病患者に高生物学的価値≠フタンパク質がなぜ余計に必要なのか、その理由は解っていない。しかし、これは患者はタンパク質の消耗が多いことを示しているものとは考えられる。食欲欠乏・低蛋白血症・体重の減少などは、タンパク質が奪われていることを明確に示す証拠である。肝細胞で分解したタンパク質が補給されないと、全ての種類の酵素のタンパク質が急速に失われることになる。だからタンパク質を補うことは必要な酵素を確保させることになる。患者が必要以上のタンパク質を摂っても、タンパク質過剰のリスクはほとんど無い。これは病んだ肝臓に負担をかけることを心配する意見もある中で、喜んでいい事実である。
 ドックは腎臓と違って肝臓は、余分なタンパク質にも対処する能力を持つことを明らかにした。肝臓の動脈は食事中のタンパク質が74%増えても必要量が増加した分の酵素を取り入れることが出来るのである。
 食欲不振の目立つ患者でも受け入れられる食事処方箋の一例では、1日に炭水化物350〜500グラム、100〜120グラムのタンパク質、50〜80グラムの脂肪となっている。
 スネル、ステア、ソーン、パテック、ポスト、フレミングなどはこう言う内容の食事を支持し、インゲルフィンガーやホルトは若干の修正を加えてこの食事処方を実施していた。モリソンはもっとタンパク質を増やし、200〜300グラムのタンパク質、300〜500グラムの炭水化物、50〜100グラムの脂肪で2,500〜4,000キロカロリーの食事にしていた。
 グッドマンとガーヴィンは150〜250グラムのタンパク質、600〜800グラムの炭水化物、150〜200グラムの脂肪で5,000キロカロリー摂る食事で急性の肝臓病患者18人の治療に成功した。彼は普通の3食の食事の他に、1時間ごとに食事を与えたのだった。その結果患者の体と気持ちにほとんど全ての電気的#ス応が観察された。
 私はこのすごい量の食事が、完全に消化されたとは思えない。普通にコンスタント(一定の間隔で継続的)に受け入れられる食事を与えるやり方のほうが、よさそうに私は思う。重要な問題は特別な内容の食事を処方することではなく、栄養のある食物の最高のレベルでの消化を、確実に確保することである。
 深刻な肝臓障害の場合は、食事を抜くことが大きなハンディ・キャップになる。何人かの専門家はこう云う時にはすぐにグルコースの静脈注射でそれに替えるのが一番いい、としていた(1958年現在)。
 食事を食欲のそそるものにする努力も必要である。脂肪や肉は味覚をよくする。この理由から、ホーグランドは脂肪の制限に疑問を投げかけている。また医学理論の説くところに反して、患者は脂肪の消化にそれほど問題を持っていない、ように観える。しかしコリンやメチオニンの肝臓を保護する働きが脂肪摂取が過剰になると、打ち消されてしまうということも忘れてはならない。
 脂肪が充分だと食物中の炭水化物タンパク質の利用効果は高まる。脂肪を制限しない食事なら客観的に観ても食欲が容易に回復し、カロリーの摂取量も高まる。患者が自分で好きな物を選んで、この方向に導いていくのが1つのやり方である。食事の専門家や医師は役立つ食物とか食事の原理を指針としている。しかし、食物の好みを誰よりも知っているのは患者自身、である。食事の中に食欲を減退させるものがなに1つ入っていても、食欲を全くなくしてしまうことがある。食物の見かけや匂いも患者の食欲を左右する。
 食事に対する気持ちは1回の食事の間だけでは終わらず、食欲不振の患者は次の食事も抜いてしまおうと感じる。これに対して1回の食事が食べられると、もはや食事を摂るのは苦にならなくなるように観える。
 食欲不振の患者は矯正されて大量の食物を規則的に食べている、とは言え、いつも苦痛を感じながら食べている。食事プランは患者の状態の変化に応じて変化をつけ、柔軟なものにする必要がある。
 たとえば腹水が増加すると肝硬変症では大量の食事は食べたくなくなる。だから少量で内容のある食事が好ましい。腹水を取り除いた後で普通の量の食事に戻せばいい。
 肝臓病では多くの場合、食事の摂取が問題になる。日中の食事が最善の食事≠ナ夕食は一番悪い。だから遅くなって多目のスナック(間食=おやつ)を付け加えるやり方の軽い夕食がいい。午後遅くなると腹部の膨満感は強くなり、夕食後に退く傾向にある。そしてこれが毎日の食欲に影響する。
 患者にある食事でたくさん食べさせ、これで好みに合わないその後の食事の分を補わせようするようなやり方は、賢いやり方ではない。脂肪の多い食事は食欲をそそり、一時的に食欲を増加させる。とは言っても、それはその時だけのものである。脂肪は胃に長時間残るので次の食事が充分に食べられなくなり、結果的には1日のカロリー摂取量を減らすことになる。
 タンパク質・脂肪・炭水化物の比率は詳しくは後述する。非経口的(点滴や注射など)に糖や血漿(けっしょう=血液の成分)・血液・アルブミン・タンパク水解物・混合アミノ酸・ビタミンなどを与える場合のやり方と禁忌事項についても、後で述べる。
 ところで、2−アセチルアミノフルオレンで起こしたネズミの肝臓ガンには、食事は何も影響を与えないように見えた(註72)。また食事が発ガン効果や逆に予防効果をもたらす仕組みは、解っていない(1958年現在。註73)。正常な肝臓と肝臓ガンのネズミのミトコンドリア(細胞の一種)の相違について、ホグブームとシュナイダーは報告している。
註68〜71は、その部分の原文略のために訳注も省く。
註72:S.S.リッチマン博士『肝臓・胆嚢の病気』(1953年)
註73:R.ローマン『腫瘍の経過』(1931年39号)

 またタネンバウムとシルバーストーンは同種のネズミに自然発生的に起こる肝臓ガンの発生に、餌がどう影響しているかに関して興味ある観察結果を報告している。2人によると餌の中の脂肪を2%から20%に増やすと肝臓ガンの発生率は37%から53%に上昇した、と云う。またビタミンB2を多くとらせると肝臓ガンの発生率は減った。これはカロリー摂取の減少のためと考えていい。この種のネズミでは、カロリーを減らすと肝臓ガンの抑制効果があることが確かめられているからだ。
 同じようにネズミにガンを実験的に起した場合の結果とは逆に、自然発生の肝ガンでは米の餌でガンが増えることはなく、カゼインを増やすと増えるのだった。またメチオニンもネズミでは肝臓ガンを増やす、ことが報告されている。ここからは正常な成長に必要な含硫アミノ酸は同時にガンが起こり、それが増殖するのにも必要なものなのだ、と言う結論になる。ここにも体の成長とガンの間には同一の要素がある、と言うことが示されている!
 脂肪肝の予防と治療に効果のある物質に関し、スペルバーグは治療の目的は肝臓から脂肪を取り去り、肝臓に組織学的な正常性を取り戻させることだと考えた。脂肪肝の予防と治療に効果のある物質とその動物実験での有効性について、膨大な量の実験研究が行われた。当然の結果として臨床家たちもこれらの物質を、脂肪肝の治療に利用するようになった。だが脂肪肝に効果のある物質のうちで最も重要な物質コリンで治せるタイプの脂肪肝は、コリン欠乏の脂肪肝だけである。だから人間の脂肪肝の中にもコリン欠乏の脂肪肝があると言うのは、当然考えられる。しかし、長い間の病菌感染や有害物質にさらされた結果であってコリン欠乏が原因ではない、と言う場合でも当然、考えられる。そして、この場合はコリンの効果は期待できない(註74)
註74:M.A.スペルバーグ『肝臓病』(309ページ)

 スペルバーグは良質なタンパク質、つまり肉や魚を食事で充分に摂らねばならないと、とした。そして1日に150グラムのタンパク質を目標とした。カロリーの多くは炭水化物で摂るべきなので、これは1日350グラム近くにせよ、とした。また、脂肪は最小限にした。しかしタンパク質の多い通常の食品は脂肪も含んでいて、少なくとも70グラムの脂肪を摂ってしまうことになる。
 私にはこんな高脂肪食が許されるとは思えないし、特に脂肪肝の場合はそうである。肝臓から取り除くべき物質をもっと与える、と言うのは理屈にならない。こうして外から入る脂肪が肝臓に達すると、肝臓には脂肪肝予防物質が余計に必要だとなって、治療の目的が一層難しくなる。浮腫や腹水のある場合は食事は塩分の少ないものにする必要がある(註75)
註75:同書

 「これは主に症状に対処するものだが、食事は非常な重要性を持っている。食事はいつも牛乳と砂糖、その他の炭水化物を含んでいなければならない。肝臓が全部とは云わずとも、かなり解毒機能を失っているので、動物性タンパク質は最小限に減らさなければならない。ビスマスやカンコウ、サロールなどで初夏貴兄の毒素を解毒することはやっていいが、大きな効果が期待できるものではない。水分は1日2リットルが、それ以上摂る必要がある。嘔吐には30分ごとに少量の水を摂るのが一番いいが、嘔吐が続く時には口からの飲み物はやめ、静脈や浣腸・皮下からブドウ糖を注入する(註76)
註76:J.C.ミーキンズ『実際の医学』(1944年731ページ)
第12章慢性の退化病における肝臓の治療法の開発 [2009年10月18日(日)]
P.62第5章 理論より

 私の理論は、ガンの一般的科学理論を意図したものではない。また自分の理論を他の理論や解釈と比較してみようとするつもりも、私には無い。医者が適切なガン治療を実施するうえでのガイドとして役立つことのみを目的としたものである。


P.109
●レバー療法の効果
  この章を読むに当たり、レバーの栄養所要量を御確認ください。タンパク質に対して脂肪がどれくらいあるか。市販のレバーと治療用レバーの品質の違い。ジュースに用いるレバーとは、どのように処理されているのか。そして、生食用のレバーの具体的な食べ方など…チェックすべき事柄は数多い。この章をお読みになられて全てを理解されたような錯覚に陥ることの無いよう、老婆心ながら御忠告申し上げます。

 J.リービッヒ(1803〜72年)の発見に誘発されて始まったのが古典的栄養学で、この栄養学はノールデンが「人間の栄養とは、燃焼と体の補修のための材料のことなのだ」と言う見方を示すまで続いた。
 ノールデン以前の医者の仕事は患者の必要に合わせてカロリーを調整し、患者に長期間の慢性的な退化病に対抗する力を与えるようにすることが主だった。この表面的なやり方に対して現代の医者のやり方はミネラルビタミン、ホルモンの不足、特別なタンパク質や脂肪の選択と言った、質と量の双方を調整する仕事となった。食物の量は多くのケースで考慮の対処となると共に、患者の変化する必要量に適合するようにされる。
 リービッヒもそう考えたように、どんな食事処方箋でも健康な人間の食事が、そのベースになると考えられたことはなかった。しかし特別な食事処方箋の中に取り入れられる前に、食事中の1つ一つの要素を調べるという現代風のやり方は、私の経験では失敗に終わるものでしかない。
 ヒポクラテスの教えでは大多数の栄養素が薬物≠ニされている。これは医者は特別な治療目的のためには、特別な飲食量を処方しなければならない、と言うことを意味する。だから食事処方とは、一般的な栄養的な価値についての色々な原理の組み合わせを目的とすべきものではない。大切なのは適切に摂取された食事が病気とその経過にどう影響するかを検討することである。
 肝臓のある治療法が新しい赤い血液小体(赤血球)の回復をもたらすという事実から、投薬が生み出された。活性化された酵素を多く含むそう言う強力な物質は、その他の退化病にも同じように強力な薬理的効果を持っているだろうと推定するのは、理にかなっている。
 私の治療ではカリウムが豊富で無塩で、脂肪やタンパク質が少ない食事処方を実行している患者が、色々なタイプおよび服用量の肝臓病治療薬を服用している患者より、はるかによく反応するのが証明されている。この結果、私は食事中のタンパク質を徐々に減らし、ついには最初から可能な限り全ての動物性タンパク質を摂らないようにするべきだとする結論に至った。われわれは肝臓病治療の服用量を色々と変えて試した結果、動物性タンパク質は治療に有害なことに気付いたのだ。このタンパク質は少量を加えても、出る尿の量および体から排出されるナトリウムの量を減らしてしまう。そしてそれは尿検査で、正常な腎臓機能を示すものであってさえも同じであった。また動物性タンパク質は体の解毒作用を遅れさせ、アレルギー的な有害反応が消えるのを遅くするものであった。
 このようなことから私たちは、最終的に1つの結論に達した。それは、目に見える皮膚ガンの治療効果から内臓にも同じ効果的反応が起きていると考えていい、と言う結論だった。
糖尿病患者の治療実験では、タンパク質を追加すると肝臓と腎臓の負担が重くなり、インスリン投与の必要量が多くなることも解った。タンパク質は代謝の最終産物として尿中の窒素となり、細胞の代謝からは尿酸を生ずるが、これらは動物性タンパク質の摂取が少ないほど、体外によく排出される。横隔膜や腸管の痙縮(けいしゅく=痙攣性縮小)、それに心臓の血管の痙縮さえも退化病の中で動物性タンパク質を追加した時に、内臓の神経が過剰に刺激されて起こるものであることが判った。
 肝細胞の細胞核には、多量の核酸が含まれている。これは尿酸とプリン塩基に分解されるものである。縫えんで大量の生レバーを食べたり、そのエキスを注射する肝臓病治療ではいい結果が得られた。また普通の食事に普通の肝臓病治療を合わせた場合よりも、レバーのジュースを摂るのは一番いいことが判った。
 ガン患者の治療体験からは、大量のレバージュースの服用と生のレバーの抽出液、たとえばリリーナンバー370を3CCとビタミンB1250マイクログラムを1CCの液を溶かしたものを一緒に注射するのが、好結果を生むことが判った。またビタミンB12はアミノ酸を体が正しく使うのを助けるように思われる。アミノ酸は不必要に燃焼せず、体の細胞を造るために使われるようになるのである。ガンでは食べた栄養が正しく使われるような体の条件を取り戻させることが、1つの重要な治療プロセスである。
 ここ7から10年間の間に(1958年現在)私たちは非常に多数のガン患者を治療して来た。その大部分は治療が難しい患者だったり、末期ガン患者だったりしたが、そうとうによい結果を挙げて来たのだ。
 レバー療法を併用することは、私の治療効果を相当に向上させるものだった。またこの療法は、次のような場合にも効果を挙げて来た。
a)妊娠中毒症
b)肺その他の結核
c)重度の関節変形症
d)精神病や体の無力症
e)痙攣性の症状、とくに狭心症
f)ガン
 付け加えると、白血病や骨髄腫ではレバージュースとビタミンB12をより大量に与える必要がある。私の考えではこの2つのタイプのガンは、本当はガン(ユーイングが呼んだ意味での)ではない=Bなぜならば、代謝が他のガンの場合よりも、もっと深く≠ゥつ違った仕方で狂っているのが、この2つの病気の場合だからである。
 以上に述べた全ての病気に関しては、有害物質や近接の器官のトラブル(たとえば胃下垂)とか、迷走神経−交感神経の乱れ(アレルギーの場合におけるような)が続いた結果、肝臓がダメージを受けていると考えてもいい根拠を我々(ゲルソン・インスティティートの医師)は持っている。ビタミンと言う言葉を作ったC.ファンクもずっと昔に、肝臓機能の低下や消化のトラブルとアレルギー性の病気との関連を指摘している。
 私の治療の初期には大量の胆汁を吐き、一連の中毒性の下痢に苦しむ患者もいる。彼らは興奮し混乱し、治療をやめたいと言い出す。この激しい反応は、胆汁の分泌が盛んになり肝臓がよく働くようになって1,2日すると、患者は大いに気分がよくなり血液循環も表情も顔色もよくなって、食欲も以前より出て来る。次いで判ったのは、コーヒー浣腸やひまし油療法(経口や浣腸でひまし油を与える)が体の解毒作用を促進することや、これで先に書いたような激しい好転反応(フォロー・アップ)≠ェ起こらなくなることである。
 病気からの回復のために肝臓が基本的に如何に大切か、ここで再認識させられる。しかし肝臓の機能が、内臓の神経系によってコントロールされていることを忘れてはならない。だから鎮静剤をやめることと毒物や有害物質をせっせと体から排泄させることが不可欠である。これは肝臓と膵臓系を1つのものと考え、内臓の神経系が自由に働くようにしなければならない、と言うことを意味する。
 動物性タンパク質に過度に敏感なアレルギー患者の場合でさえ、レバーは栄養物と考えるべきである。しかし私の治療においては、レバーから摂れるような栄養は不足しているので、特別にレバーを与える療法でこれをカバーしないといけない。有害物質で体が強く毒されていたり退化病のような場合には、肝臓の働きを強く促す必要があるので、レバーエキスの注射やレバー・ジュース療法をやらねばならない。
 また重症の骨関節炎・喘息・狭心症の場合やガンでは、レバー療法と食事療法を組み合わせる必要がある。塩抜きで脂肪とタンパク質の少ない食事にレバー療法を組み合わせると血統は確実に下がる。この注射は肝臓の酵素の働きを高め、インスリンの効果も高め、アドレナリンの影響もかなり少なくする。
 E.ロイボルトによれば、血糖値を低下させることはガン治療に大きな意味を持っているし、さらにアドレナリンの影響を少なくすることも非常に大切だ、と言う。だから最近の10年間(1958年現在)には2つの副腎を採ってしまうと言う荒治療過ぎて回復を阻害するような手術も行われたほどである(註77)。しかし結果としては、E.H.レイ博士は「副腎切除手術の効果は小さく、かつ、ごく短期間の効果しかない、だからこの手術はやめるべきだ(註78)」と言う。博士はさらにこうも云っている。
 「卵巣を採った後では副腎は最も重要なエストロゲン(女性ホルモンの一種)分泌腺である。末期で乳房にガンが転移した79人の患者が治療兼予防処置として卵巣と共に副腎を採る手術を受けた。38.7%の患者には客観的になんの改善も観られず、57.3%に主観的な改善状況があった。この種の手術では客観的な結果として、転移が広がる現象も観られた。転移ガンの場所に関する限り、こう範囲の転移による黄疸が起こるようではいけないと考えられて来たものである(註79)」
註77:E.ロイボルト教授『腫瘍の成長及び破壊と血液内容の関係』(1954年)
註78:『前立腺ガンの内分泌治療』アメリカ医学協会誌(1957年3月23日号)
註79:M.ガランティ他の報告『転移乳ガンの副腎切除手術』同誌

〔要約〕
 レバー療法は控え目な投与量で、かつ自然なやり方でやる限り一言で云って一種のホルモン・酵素療法と考えることが出来る。グリーコーゲン、カリウム・グループのミネラル類、ビタミン類を肝臓やその他の組織に取り戻させるのに役立ち、酸化酵素がよく働くような条件をつくるのに最終的には役立っている。