近年のライフスタイルの変化に伴って,肥満者が急増した原因として,
「倹約遺伝子説」
(「エネルギー倹約遺伝子説」)
が広く受け入れられています。
これは,かつて,食糧不足や飢饉の時代には,過剰なエネルギーを効率よく脂肪に蓄えることのできる人が生存に有利であったため,そのような遺伝子(=エネルギー倹約遺伝子)を有する人が選択的に生き延びてきた,その結果,過剰エネルギーの摂取によって太りやすい体質の人が多い現在では,肥満者が増えている,という仮説です。
この倹約遺伝子説(thrifty gene説)に対しては,反論があり,別の仮説(drifty gene説)を提唱する研究者もいます。
(以前にもこのブログで紹介したことのある,JR Speakmanによる説です。)
肥満研究の専門誌に,thrifty gene vs. drifty geneのディベートが掲載されていました。
(Int J Obes 32: 1607-1610 ;2008,Int J Obes 32: 1611-1617;2008)
倹約遺伝子説に対するdrifty gene説の論点は,飢饉や飢餓では遺伝子の選択と集積は説明がつかないということです。
論文では,飢饉と出生率の関係,体重の季節変動について,バングラデシュやガンビア,オランダのデータを示しながら反駁しています。
エネルギー倹約遺伝子説については,近年の状況証拠から,広く受け入れられているように思われがちですが,実際にはサイエンスの分野として議論があるということになります。
(欧米の学会に参加するとわかりますが,最近,話題になっているテーマです。)
どちらが正しいというよりは,環境(栄養と運動)と遺伝子の相互作用という視点からの説明が必要な分野と思われます。
例えば,エピジェネティクスからの説明も可能と考えられます。
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