先月末の内科学の専門ジャーナルに,エキナセアによる風邪の改善作用を検証した臨床研究が,米国のグループから報告されていました。
(
Ann Intern Med. 2010 Dec 21;153(12):769-77)
エキナセア(エキナシア,和名ムラサキバレンギク)は,北米原産のハーブです。
風邪(普通感冒,上気道炎)やインフルエンザの感染初期に,治療目的で投与され,症状の軽減と罹病期間の短縮効果が認められます。
また,風邪の予防目的にも利用され,罹患リスクの減少効果が知られています。
ハーブとしてのエキナセア(
Echinacea species)は,
E. angustifolia,E. pallida,E. Purpureaの3種が代表的です。
伝統的な投与方法では,主にE. Purpureaの全草(地上部や根,根茎,葉を含む全草)がチンキ剤として用いられます。
(乾燥末を用いたサプリメントでは,主要成分であるアルキルアミド類alkamidesの含有量で標準化されています。)
さて,今回(10年12月21日発表)の臨床試験では,エキナセアを普通感冒(風邪)の初期に投与して,有効性(罹病期間および重症度への影響)を検証しています。
試験結果によると,偽薬群に比べて,エキナセア投与による改善傾向が示されています。
ただし,実薬群と偽薬群との間に,統計学的な有意差は認められていません。
(一般に,エキナセアなどのハーブは,介入効果は,医療用医薬品と比べて緩やかですので,被験者の数が多くなると交絡因子の調整が容易でなく,臨床的な有意性が示唆される場合でも,統計学的な有意差が見出されないことがあります。)
論文抄録だけをみると,
疾患の罹病期間と重症度に関して,エキナセアと偽薬群の両群に有意差はなく,
今回の試験で用いられたエキナセア処方の用量用法による有用性は支持されない,
という表現になっています。
(論文著者らは,著名な研究者および臨床医であり,慎重な表現になっています。)
この研究データは,日本でもネットを中心に紹介されています。
(ただし,抄録の結論だけが一人歩きをして,エキナセアには効果がない,という誤った情報が伝えられているようです。)
今回の研究は,エキナセアの臨床研究としては大規模であり,RCT(ランダム化比較試験)として,ウィスコンシン州の2つのコミュニティで実施されています。
日常生活における普通感冒に対する暴露を設定しており,実験的なウイルス播種よりも実践的な検証方法です。
(年齢層も幅広く,交絡因子も大きくなり,患者背景の調整が容易ではありませんが。)
今回の研究の概要は,次のとおりです。
12歳から80歳の普通感冒の新規発症患者719名を対象に実施,713名が完了。
(1)偽薬非投与の対照群
(2)偽薬投与群
(3)エキナセア・オープンラベル投与群
(4)エキナセア盲検化投与群
初期症状発現24時間以内に,エキナセアが投与され,主エンドポイントの重症度と罹病期間,副エンドポイントのIL-8値に有意差は示されていません。
これまでのいくつかの先行研究に比べて,今回は,用量用法や研究デザインが優れたものになっています。
(たとえば,数年前のNJEMの研究では,健康なボランティアにウイルスを播種する方法であり,かつ,用いられたエキナセア種もpurpuriaではないものでした。)
エキナセアの3種類の中では,
E.purpureaの全草(葉などの地上部と根)による製品投与によって,有効性が最も示されています。
(また,製品によっても処方に違いがあります。今回の研究では,オーストラリアのMediHerb製品(
E.purpureaの根675mgと
E.angustifoliaの根600mgの乾燥末,alkamides 2.1mgで標準化)が用いられています。)
症状軽減に関して,エキナセア投与の2群では,偽薬群に比べて改善傾向が認められ,統計学的な有意差はないものの,罹病期間では,1週間の病日に対して,12時間(半日)の短縮が示されており,重症度も約10%の軽減効果傾向が見出されています。
論文著者らは,統計学的には有意ではないが,臨床的に有意であるとした患者群がいるとしています。
エキナセアに関しては,数多くの先行研究によって臨床試験が行われており,系統的レビュー・メタ分析において,普通感冒(風邪)やインフルエンザの予防(罹病回数の軽減)作用,症状改善(罹病期間の短縮と症状軽減)作用が報告されています。
今回の研究でも,抄録の結論だけをみるとネガティブデータのような印象ですが,患者指向のアウトカム(転帰)では,エキナセア投与の2群における優位性が示唆されています。
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