アメリカ医師会ジャーナルに,乳がんサバイバー(生存者)の予後(死亡率・再発)と,大豆食品の摂取との関連を調べた研究が,米国のグループ(Vanderbilt Epidemiology Center)から報告されていました。
(JAMA. 2009 Dec 9;302(22):2437-43.)
大豆には,女性ホルモン様作用を有する植物エストロゲン・大豆イソフラボン類が存在し,乳がんの予防やリスク低減における臨床的意義が注目されています。
一方,エストロゲン様作用に関して,タモキシフェンとイソフラボン類の潜在的な相互作用によるリスク,つまり,大豆食品や大豆イソフラボン類が乳がん患者においてリスクとなるのでは,という理論上の懸念もあります。
(タモキシフェンは乳がん治療剤/抗がん剤で,エストロゲンに拮抗します。)
そこで,今回の研究では,乳がんの予後としての全死亡率および乳がん再発率と,大豆食品摂取との関連が検証されました。
具体的には,中国での乳がんサバイバー5042名を対象に,癌と診断後のライフスタイル,治療,疾病の進展といった情報が,診断後の6ヵ月の時点で調査され,さらに,フォローアップ期間の3点(診断後18ヵ月,36ヵ月,60ヵ月)で再評価されています。
(被験者は20歳から75歳。2002年3月から2006年4月の間に乳がんと診断され,2009年6月までフォローアップ。)
(Shanghai Breast Cancer Survival Studyというコホート研究。)
フォローアップの中央値は3.9年(0.5〜6.2年)でした。
外科的に乳がんの治療を受けた5033例が解析の対象となり,444例の死亡と,534例の再発あるいは乳がん関連死が見出されています。
コックス比例ハザード回帰分析にて解析された結果,大豆食品の摂取量(大豆タンパク質あるいは大豆イソフラボン類で測定された摂取量)は,全死亡率および乳がん再発と負の相関が示されたということです。
大豆タンパク質の摂取量について4分位で最高位の群(=最も多くの量を摂取した群)のハザード比は,最低位の群(=最も少ない量の摂取群)に比べて,全死亡率が0.71(95%CI 0.54-0.92),再発リスクが0.68(95% CI, 0.54-0.87)でした。
大豆タンパク質の摂取量が最低位の群と最高位の群では,4年間の全死亡率が10.3%と7.4%,再発率が11.2%と8.0%でした。
大豆食品の摂取と死亡率・再発率の低下との相関は,エストロゲン受容体陽性あるいは陰性のいずれのタイプの乳がんでも見出され,また,タモキシフェン投与の有無にかかわらず相関が示されています。
以上のデータから,大豆食品の摂取は,乳がん患者(女性)における死亡率とがん再発率を有意に下げることが示唆されます。
なお,今回の調査対象は,中国人女性であり,日本人女性と比べて,大豆食品の摂取量が多いグループです。
そのため,平均的な日本人と比べてかなり多くの大豆製品を摂る必要があります。
機能性食品素材を含むサプリメントでは,大豆イソフラボン含有食品が製品化されています。
(アグリコン型ではなくて)大豆食品に存在する化合物の形であるグリコシド型(配糖体型)の大豆イソフラボン類であれば,乳がんの予防だけではなくて,乳がんサバイバーの死亡率低下や再発予防にも補完的に利用できると考えられます。
(今回の研究データは,大豆サプリメントではなくて大豆食品であり,大豆サプリメントの効果については別途,臨床試験による検証が必要である,という批判があるかもしれません。
ただ,乳がんサバイバーの方で,いつになるかわからない臨床試験の結果を待っていられない,という場合には,選択肢の一つとして,
グリコシド型の大豆イソフラボンサプリメントがある,という話です。)
------------------------------------------------------------------
医療関係者のための健康食品情報サイト【DHCサプリメント研究所】
------------------------------------------------------------------