サプリ研究の第一人者、蒲原先生の公式ブログです。

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「イチョウ葉エキスは認知機能低下を抑制しない(JAMA)」論文の間違い [2010年01月07日(木)]
先月の米国医師会ジャーナル(JAMA)に,「イチョウ葉エキスは,高齢者における認知機能低下を抑制する作用はない」とするネガティブ・データが,米国のグループから報告されていました。
(JAMA. 2009 Dec 23;302(24):2663-70.)


これは,GEM研究(Ginkgo Evaluation of Memory study)と呼ばれるランダム化二重盲検試験です。


具体的には,72歳から96歳までの3069名を対象に,1日あたり240mg(分2)のイチョウ葉エキス,あるいは偽薬が投与されています。


平均6.1年(フォローアップ期間の中央値)のフォローアップの結果,3MSEやADAS-Cogといった指標について,両群間に有意差は認められなかったということです。


論文著者らは,偽薬群と比べてイチョウ葉エキス投与群では,正常あるいは軽度認知機能障害の高齢者における認知機能の低下を抑制する働きは示されなかった,と述べています。



この論文の結論は,今後,サプリメントについてのネガティブ・データを好むメディアで取り上げられると思いますので,問題点を指摘しておきます。


(1)主アウトカムではないこと。

まず,このGEM研究は,認知機能の低下を検証するためにデザインされたものではありません。

もともとは,2008年に既に発表された試験です。


GEM研究は,本来,イチョウ葉エキスが認知症の発症を予防するかどうか,検討するためにデザインされています。


その試験で得られたデータを元に,認知機能についての解析を行っていることから,今回のJAMAのデータは,主アウトカムについての解析ではありません。


一方,これまでに報告された偽薬対照臨床研究では,イチョウ葉エキス投与による正常な成人での短期記憶など認知機能の改善作用が示されています。


(研究の本来の目的が異なり,試験デザインや解析方法に問題があるのに,データの流用で別の解析を行って,ネガティブ・データが一人歩きした例として,2007年のセレンと糖尿病の例があります。日本のメディアではあまりみませんでしたが,米国では大きく報道されました。)


(2)治療効果を過小評価する解析方法であること。

次に,6年間のフォローアップ中,40%が脱落していますが,統計解析では,(最終の測定データが存在しない)脱落者を含めて処理されています。

この解析方法は,治療効果を過小評価します。


この研究では,ITT解析が行われています。

ランダム化比較試験などの臨床研究では,治療群や対照群と問わず脱落者が出てきます。

割り付けられた治療から逸脱した被験者をすべて含めて解析するのが,ITT 解析(intention to treat analysis)です。

(脱落者を除き,実際に行われた治療に基づいて行う解析はon treatment analysis 。)


ITT解析の本来の意図は,解析の際に脱落者を除くと,最初の割付とは別のグループになってしまうため,(交絡因子を調整した)最初の無作為化/ランダム化を重視するというものです。

つまり,交絡因子/背景因子のバイアスを除いた解析方法といえます。


しかし,ITT解析では,治療効果が過小に判定されるという欠点が知られています。


化学的には毒物であることが多い医療用医薬品の場合,治療効果を過大評価するよりは,ITT解析による検証を行うことが適切と思われます。

(特に,日本のように国民皆保険制度によって医薬品の費用が補填される場合は重要でしょう。)


一方,薬用植物や機能性食品素材のように,緩徐な作用を有する成分を検証する際には,交絡因子の調整も重要ですが,ITT解析による効果の過小評価が一人歩きするのは問題と考えます。



(3)試験デザインの問題点

さらに,認知機能関連パラメーターの一部は,試験開始後,期間をおいてから,測定されており,正確な評価となっていません。

最初に指摘したように,試験デザインが認知機能を主アウトカムとしていないためです。



(4)被験者の妥当性

その他,試験開始時点の平均年齢が79歳と高齢であることも,適切な被験者群かどうか,疑問が残ります。

(一般に,イチョウ葉エキスは,中高年を対象に投与されることが多く,今回の試験のように,対象者があまりに高齢では,ハーブの緩徐な働きによる予防効果が検出されにくいと想定されます。)


(5)ポジティブ対照群がないこと。

これら以外の問題点として,positive対照群としての実薬群がないこともあります。


つまり,偽薬群とイチョウ葉エキス群だけではなくて,認知機能低下を改善する作用のある実薬群との3群比較であることが臨床試験の本来のプロトコールであるべきです。

(といっても,そのような実薬は医療用医薬品では存在しないので,イチョウ葉エキスが広く用いられているわけですが。)






近年の複数の臨床研究によって,イチョウ葉エキスは,認知機能の改善効果を示すことが報告されています。




一般に,米国医師会ジャーナル(JAMA)は,サプリメントに関するネガティブデータを好んで掲載するので,何か政治的な意図があると勘ぐりたくなります。

(実は,関係者の間では,利害の衝突による政治的な意図があることは周知の事実ですが。)

(実際,JAMAでは,臨床試験プロトコールが明らかに不適切という論文でも,サプリメントに対するネガティブデータであれば,過去に何度も掲載されています。SJW/SSRI,ガルシニア,イチョウ葉など。)


メディアでは,医学情報のリテラシーが高いとはいえないライターによる記事が散見されます。

特に,サプリメントの関連では,ネガティブ・データが意図的に大きく報道されることがあります。

一つの研究だけではなく,その機能性成分に関する研究全体を俯瞰的に評価して,サプリメントの利用のためのガイドラインを作成し,わかりやすく提示することが必要と考えられます。


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医療関係者のための健康食品情報サイト【DHCサプリメント研究所】
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posted at 23:53 | この記事のURL
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