先月,BMJ(英国医学ジャーナル)に,グルコサミンとコンドロイチンのメタ分析によるネガティブなデータが報告されていました。
(BMJ. 2010 Sep 16;341:c4675. doi: 10.1136/bmj.c4675)
この論文では,グルコサミンもコンドロイチンも,効果が認められない,という結論になっています。
ただ,グルコサミンやコンドロイチンの効果を示してきたこれまでの多くの論文が除外されてしまうようなプロトコールで選別しているため,かなりバイアスがかかっている印象です。
一方,
グルコサミンも
コンドロイチンも,多くのRCTやメタ分析で,その有効性と安全性が示されてきました。
(それらの結果が,今回の不十分なメタ分析で覆るわけではありません。)
まず,今回の論文では,一定の基準で選択した58報のうち,10報しか解析していません。
(欧州の基準に基づいて,グルコサミン1500mg/日未満,コンドロイチン800mg/日未満としていますが,それを少し下回る投与量の論文で有効性が示されていた場合では,すべて対象外になっています。)
また,統計手法に関する批判的な見方も可能です。
有効性を示した論文が,被験者が少ない,あるいはランダム化が不十分といった理由で除外されるのは仕方ありませんが,それらを処理できるような統計手法を用いて解析すべきという考えもできます。
例えば,今回の論文は,ベイズ統計による解析ですが,RCT以外の研究を組み入れる余地があるのでは,という批判があります。
その他,欧州(や日本)では,グルコサミン(あるいはコンドロイチン)はOTC医薬品としても販売されているのですから,この論文がいうように,本当に効果がないのであれば,医薬品としては取り消されてしまうはずですが,特にそのような動きはありません。
(最近行われた個別の大規模研究で,ネガティブな結論を示した)GAIT研究でさえ,層別解析では有効性が示されています
下記の図は,主アウトカムであるVASのデータです。それぞれのグラフで左よりになっていますので,グルコサミン,コンドロイチン,2剤併用群での効果を示唆している,と考えてもいいのですが,臨床的有意差がない,ということになっています。
(実際に,ゼロをクロスしていますので,有意差はありません。
ただし,前述のように,有効性を示した多くの研究が,解析の対象となっていません。
また,バイオマーカーという点では,VASよりも客観性の高い指標での判断が求められます。)
グルコサミンやコンドロイチンは,効果を体感できるタイプのサプリメントですので,本当に効かないのであれば,消費者が自己負担で購入する必要性はありません。
(しかし,実際には,日米欧で広く自己負担のサプリメントとして用いられています。)
(一方,日本では,エビデンスがない,あるいは,効かない薬でも,健康保険が適応されて患者負担が非常に少ないために,処方され続けてきた医薬品も珍しくありません。)
なお,関節症に対する統合医療的アプローチでは,機能性食品・サプリメントの組み合わせ,(上半身肥満であれば)減量,適切な食事と運動習慣,さまざまな補完療法,必要に応じて医薬品などが用いられます。
(つまり,グルコサミンやコンドロイチンといったサプリメントだけでよくなる,という話ではなく,ライフスタイルも含めた見直しが推奨されます。
また,グルコサミン,コンドロイチン,
5−ロキシン,
MSMなど複数を組み合わせた多角的な作用機序によるアプローチも可能です。)
最後に,価格が適正でないと,継続できませんので,費用対効果も大切です。
(
グルコサミンや
コンドロイチンは,1か月分が1,000円前後,その他の関節症状訴求成分でも1か月分が2000円前後の負担で,適正な品質の製品が入手できます。
1か月分が数千円以上になるような製品でしたら,それを買う側よりも売る側になるほうがお得です。)
「患者に医薬品を販売する」という従来型のビジネスモデルに依存する専門メディアは,予防やセルフケアで用いられるサプリメントについて,ネガティブなデータを好んで流すのは,特に新しいことではありません。
ただ,論文の見出しや抄録程度のデータ,もしくは,それらを報道する偏ったネガティブキャンペーンに対しては,それらを鵜呑みにしないように注意が必要です。
(例えば今回の論文ですと,タイトルと抄録だけを読んで,サプリメントにネガティブな意見を言うのは失格です。)
(過去に,明らかなプロトコールミスなどをそのまま取り入れた複数の例があり,要注意なのは,JAMAやNEJMです。なお,今回はBMJの論文です。)
ちなみに,医薬品についても,科学的な公正さに対して利害の衝突が影響を及ぼしてバイアスを生じたという数多くの例が知られています。
(利害の衝突があればそれらを開示した上で,産学協同研究を進めるべき,と考えます。)
ポジティブなデータにせよ,ネガティブなデータにせよ,このような論文を読むときには,‘healthy skepticism’の視点が重要です。
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