今月の抗加齢栄養学の専門ジャーナルに,亜鉛が高齢者におけるタンパク質代謝を改善するという臨床研究が,スイスのグループから報告されていました。
(J Nutr Health Aging. 2009 Jul;13(6):491-7.)
一部の高齢者では,低栄養状態からタンパク質不足を生じえます。
(健常な高齢者では問題になることは少ないですが,要介護といった場合には注意が必要でしょう。)
高齢者での低栄養状態は,IGF-T低値を介して骨粗鬆症といった病態に発展する可能性もあります。
亜鉛はIGF-T産生に影響を与えるミネラルであることから,今回の研究では,亜鉛投与によるIGF-T値および骨代謝への影響,必須アミノ酸投与への反応性の変化が虚弱高齢者において検討されました。
具体的には,栄養評価スコアが17から24であった66.7歳から105.8歳までの入院患者61名を対象に, タンパク質サプリメントが経口投与され,さらに,1日あたり30mgの亜鉛あるいは偽薬が併用投与されています。
(4週間のランダム化二重盲検試験。)
タンパク質サプリメントの投与前,1週間後,2週間後,4週間後の時点で,各種評価が行われた結果,まず,両群において血中IGF-T値の上昇が認められています。
亜鉛投与群では,IGF-Tの増加率が大きく,1週間の時点で,偽薬群では+22.4 ± 4.7%であったのに対して,亜鉛投与群では,+48.2 ± 14.3%でした。(p < 0.05)
このとき,亜鉛は,血中骨吸収マーカーを有意に抑制し,日常生活活動指標は偽薬群では+18.3 ± 4.5%,亜鉛投与群では+27.0 ± 3.1%とそれぞれ改善を認めました。
以上のデータから,虚弱高齢者における亜鉛サプリメントの摂取は,栄養代謝およびQOLの改善に有用であることが示唆されます。
もちろん亜鉛とタンパク質だけ摂ればいいというものではありませんが,高齢者の低栄養状態の予防や改善に対して,栄養サプリメントを補完的に利用することは臨床的に意義があると考えられます。
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