先日、抗インフルエンザウイルス剤による有害事象(異常行動)の調査に関連して、薬の副作用を調査する研究班の大学教授が、製薬会社から寄付金を受け取っていたことが問題になりました。
製造販売を行う製薬会社から寄付金を受け取っている場合、調査研究の公正さに疑念が起きるという理由です。
(なお、担当の教授は、「寄付が研究結果に影響することはない」というコメントを発表しています。)
(一般に、このような研究では複数の分担研究者がおり、データが客観的に処理され、公表される場合、恣意的な判断が入り込む余地はあまりないとも考えられます。)
抗インフルエンザウイルス剤と異常行動との因果関係については、今後の研究により明らかになると思います。
今回の件について、寄付の有無が研究結果に影響を与えたのかどうか、現時点では不明です。
ただし、誤解を生じる行為がないように、研究者側も留意するべきでしょう。
さて、現在、医学・医療の世界では、2種類の事象が起こっており、その変化に見合った指針やルールの作成が求められているようです。
2種類の事象とは、「研究における利害の衝突」と「産学(産官学)共同研究の推進」です。
まず、「研究における利害の衝突」についてです。
過去の事例として、「研究の中立性」・「科学的公正さ」に「利害の衝突」が影響を与えたらしいことが報告されています。
例えば、高血圧の治療に広く用いられているカルシウム拮抗薬の安全性についての研究があります。
1998年にニューイングランドジャーナルオブメディシンに報告された研究によると、
--カルシウム拮抗薬の安全性に関する70編の論文を検討。
--製薬企業と研究論文の著者との利害関係を調査。
--その結果
同薬の使用に: 賛成 中立 反対
製薬企業との利害関係のある割合 96% 60% 37%
(p<0.001)
となっています。
(Stelfox 1998 NEJM)
つまり、
カルシウム拮抗薬の使用に賛成した医師(あるいは研究者)は、(研究費などの点において)製薬企業との利害関係を持っている確率が有意に高い、というデータです。
もう一つ、「利害の衝突」が「科学的公正さに影響」を及ぼした研究として、「受動喫煙の危険性」の例を紹介したいと思います。
この研究は、
「受動喫煙の健康への影響に関する総説の内容が異なるのは何故か」
という疑問について検証したものです。
--106編の論文を分析、そのうち39編(37%)は「受動喫煙は健康に有害ではない」という結論。
--39論文の著者のうち、29論文(74%)の著者がタバコ会社から研究費を受け取っていた。
--多変量解析の結果、「タバコ会社との利害関係がある」研究者が、有意に高い割合で「受動喫煙の危険性を否定する」論文を書いていた(オッズ比88.4)。
と報告されています。
(Barnes 1998 JAMA)
利害の衝突による公正さ・中立性への影響を指摘したいずれの論文も、医学ではメジャーな専門誌に発表され、注目されました。
ただし、これは10年ほど前の論文です。
現在では、研究の在り方について、さまざまなルールが整備され、中立性・公正さを保つようになりつつあります。
ところで、もう一つ、近年の日本の動向で、懸念を生じうる事項は、「産学(産官学)共同研究の推進」です。
現在、国立大学が独立行政法人化され、研究費の獲得も含めて、競争原理が働くようになっています。
民間企業との共同研究・産学共同研究の推進は、政府の施策の結果です。
そのため、利害の衝突が生じやすい環境が生まれています。
かといって、時代を逆戻りするというのは現実的ではないですし、日本の研究レベルをあげるという視点からも、産学協同・産官学共同による研究推進は必要と考えます。
(日本の場合、たいていの大学の研究費よりは、大企業の研究費のほうが明らかに多いという現実があります。)
では、研究の中立性や公正さに影響を与える(可能性のある)「利害の衝突」について、解決するには、どのような方法があるのでしょうか。
(続きは明日述べさせていただきます。)
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