昨日(6/2)、ある雑誌の取材で、シナモンの糖尿病に対する効果について、コメントを求められました。先方の編集部が用意していたデータは、2003年に発表された論文のものです。当時、「シナモンが糖尿病を改善」といった感じの見出しで、一般紙にも報道されて話題になったので、ご記憶の方も多いのではないでしょうか。
その研究では、2型糖尿病患者60名を対象に、1日あたり1g・3g・6gのシナモンあるいは偽薬を40日間投与したところ、シナモン投与群において、血糖値・中性脂肪・LDLコレステロールが低下(改善)したということです(
Andersonら)。
その某雑誌編集部の話では、このデータがTVで紹介された後、池袋の香辛料屋さんでシナモンが売り切れたとか。Andersonらによるこの研究は、ランダム化比較試験なので、結果は検討に値すると考えられます。ただし、現実的には、糖尿病の患者さんが、病気の改善目的で、シナモンをグラム単位で毎日摂取するというのは容易ではないでしょう。
この取材に先立って、新しい研究報告を探してみました。すると、今年の4月と5月に一報ずつ論文が発表されていました。
まず5月にドイツのHannover大学のグループから報告された研究では、2型糖尿病患者79名を対象に、1日あたり3gのシナモンに相当する抽出物(カプセル)あるいは偽薬を4ヶ月間、二重盲検法にて投与したところ、シナモン投与群にて空腹時血糖値が有意に低下(改善)したということです(
Mang et al)。なお、この報告では、空腹時血糖値の改善のみで、HbA1cには変化(改善)は示されていません。
次に、4月にオランダのグループから報告された研究では、2型糖尿病と診断された閉経後女性25名を対象に、1日あたり1.5gのシナモンを6週間投与した結果、特に有意な変化(改善)は認められなかったということです(
Vanschoonbeek)。この報告では、被験者のBMIが30を超えており、シナモンの用法用量が適切でなかったのかもしれません。
雑誌の編集部としては、「シナモンが糖尿病に効く」といった見出しの記事のために、私からのコメントを期待していたのかもしれません。ただし、現状のデータを見ると、シナモンの投与量が多くないと、効果が期待できないようです。つまり、シナモンパウダーをいれたカプチーノをとる程度では、とても足りず、グラム単位のシナモンを毎日とる必要があります。
シナモンの機能性成分には、糖尿尿病を改善する効果はありそうですが、食材・香辛料として一般的な量を摂る程度では、効果を期待するのは難しそうです。シナモン抽出物を効率よく摂れるサプリメントが手ごろな値段で製品化されれば、臨床試験の報告も増えるかもしれません。
でも、そのようなサプリメントができたとしても、糖尿病のコントロールには、やはり適切な食生活と運動習慣が最も重要でしょう。食後過血糖を改善する機能性成分は、さまざまなハーブや食品に見つかっています。
ただし、それらがサプリメントとして利用できるとしても、食事療法と運動療法に対する補完療法(complementary therapy)との位置づけになり、決してalternativeにはなりません。取材にこられた雑誌社の方にとっては、ご期待に添えないコメントだったかもしれませんね。