αリポ酸の摂取に伴って稀に生じうる有害事象報告に関するメディアの報道がありましたので,解説させていただきます。
αリポ酸は,欧米では2型糖尿病対策の機能性成分として知られており,特に神経障害を予防,改善する目的で広く利用されています。
欧米で行われた臨床試験では高い許容性が示されており,特に問題となる重大な有害事象は知られていません。
一方,日本では,近年,リポ酸の摂取に伴って稀な有害事象が散見されるようになりました。
これは,特定の体質(遺伝素因)を持つ人が摂る際,摂取開始後1ヵ月から2ヵ月で,稀に,低血糖症状を生じうるというものです。
ただし,その体質を持っている人すべてに生じるわけではありませんので,実際の発生は稀です。
また,αリポ酸特有ということではなくて,化学構造上,SH基を有する物質では生じうることとして,薬学の分野では以前から想定されていることです。
以下,
拙著「
サプリメント事典第3版」(平凡社,2010年3月刊行)
のαリポ酸の項目からの抜粋です。
『α-リポ酸の服用とインスリン自己免疫症候群(IAS)の発症との関連を示唆する症例が複数報告されている。
IASの発症メカニズムとして,特定のHLA(ヒト白血球型抗原)を持つ患者がSH基を有する薬剤を服用した際,インスリン抗体の産生が惹起されると考えられている。
α-リポ酸は体内でSH基を有するジヒドロリポ酸に転換されることが知られており,α-リポ酸の摂取とIAS発症との関連が否定できない。
したがって,αリポ酸服用中に,発汗や震えなど低血糖症状が現れたら摂取を中止する。
なお,IASの治療としては,原因薬剤の中止と分食が推奨され,本邦におけるIAS患者の多くは自然緩解することが知られている。
α-リポ酸含有健康食品の摂取に関連するとされたIASの症例の場合でも,自然緩解の経過が報告されている。
α-リポ酸によるインスリン自己免疫症候群は非常に稀であるが,体調不良を感じたら,摂取を中止し,医師の診察を受けること。』
近年明らかになった,このαリポ酸の摂取に関連した稀な有害事象については,(研究者としての私見ですが)サイエンスの進歩であると考えています。
欧米での臨床試験や臨床経験では見出されていないことが,日本の臨床経験でわかるようになり,かつ,その作用メカニズムも原因に関連する遺伝素因のレベルから明らかになったわけですので,個別化医療・オーダーメイド医療の実現に向けたサイエンスの進歩,エビデンスの構築であると理解しています。
(例えば,類似したケースに,漢方薬があります。
40年ほど前,漢方薬が健康保険適用となり,一般に処方され始めたとき,
「漢方薬は天然の生薬であり,安全で副作用はない」
とされていました。
その後,漢方薬の摂取に伴って多くの副作用が報告されました。
ただし,これは,「だから漢方薬は危ない」ということではなく,サイエンスの進歩として,医学的知見の集積を介して,適正使用に関するエビデンスが構築されつつある,と捉えられます。)
一方,メディアでは,健康食品・サプリメントに関するネガティブなトピックとして取り上げられると思います。
「危ない健康食品」といった文脈が想像されます。
どんな専門分野であっても情報格差が存在する中で,いかに上手に適切な情報を伝えるか,というのは,容易ではありません。
αリポ酸および健康食品については,昨年にも同様のケースがありました。
サプリメント/健康食品についての情報提供のあり方もご覧いただけると幸いです。
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医療関係者のための健康食品情報サイト【DHCサプリメント研究所】
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